あつた、Mのおかみさんとその娘、何もないからコーヒーを少しあげた!
涼しすぎる風、蒲団なしでは寝てゐられなかつた。

 七月廿五日[#「七月廿五日」に二重傍線] 晴。

早起、焼香、肌寒。――
節食、それは絶食の前提となるだらう。
老鶯啼く、ゆつくりしんみりコーヒーを味ふ。
所在なさにあちらへいつたりこちらへきたり、そこらをあるきまはる。……
雪国[#「雪国」に傍点]を読む、寂しい小説だ、康成百パアの小説だ、人生は一切徒労か、情熱いたづらに燃えて、燃えつくすのか!
よい日であつた、よい風が吹いた、よい人生であれ。
午後、暮羊君来庵、読書、昼寝、談笑。……
身心が何となくだるい、風に労れたのでもあらうか。
Yさんの戦死は私を悲しがらせて、――どうにもならない。

 七月廿六日[#「七月廿六日」に二重傍線] 晴――曇。

好晴がつゞいたが曇となつた、どうやら雨が近いらしい、物みな待ちかまへてゐる。
待つともなく待つもの[#「待つともなく待つもの」に傍点]、――来なかつた。
絶食[#「絶食」に傍点]、食べるものがないから食べないのだが、身心清掃[#「身心清掃」に傍点]の工作としてよろしい。

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