ストまで出かけて、いろ/\買物をする、米、麦、石油、豆腐。……
自動車に轢かれて、小犬が断末魔の悲鳴をあげてゐる、見るにたへない、聞くにたへなかつた。
夏水仙を持つてかへつて活ける、楚々として純白な美しさ。
生れて初めて糠味噌[#「糠味噌」に傍点]をこしらへる、少々塩が利きすぎたが、うまく出来た、さつそく茄子を漬ける。
今日は楽しい日だつた、今日は今日の幸福[#「今日の幸福」に傍点]を味はつた、有難い一日であつた。
夕、敬君来庵、間もまく[#「間もまく」はママ]、酒と肴とを持つて暮羊君来庵、三人でつゝましくたのしく飲んだ。
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私はよく物を貰ふ、人がよく物を下さる。
私は何でもありがたく頂戴する。
私は物貰ひ[#「物貰ひ」に傍点]に出来てゐる人間だらうか。

恩に狎れてはいけない。
人情に甘えてはならない。
[#ここで字下げ終わり]

 七月十四日[#「七月十四日」に二重傍線] 晴、曇。

早起、花を剪る、車百合は床の壺に、夾竹桃は仏前に。
身辺整理。――
Sから貰つた味噌を食べる、何だか涙ぐましくなつた。
いろ/\のたよりを受取る、いろ/\のたよりを発送する。

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