夜長ノート
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)埃及《エジプト》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のんびり[#「のんびり」に丸傍点]
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 小春日和のうららかさ。のんびり[#「のんびり」に丸傍点]とした気持になって山の色彩を眺める。赤い葉、黄色い葉、青い葉、薄黒い葉――紅黄青褐とりどり[#「とりどり」に丸傍点]のうつくしさ。自然が秋に与えた傑作をしみじみ[#「しみじみ」に丸傍点]味わうたのしさ。いつしか、うっとり[#「うっとり」に丸傍点]として夢みごころになる。自然の無関心な心、秋の透徹した気、午後三時頃の温かい光線が衰弱した神経の端々まで沁みわたって、最う社会もない、家庭もない――自分自身さえもなくなろうとする。
 けたたましい百舌鳥の声にふっ[#「ふっ」に丸傍点]と四方の平静が破れる。うつくしい夢幻境が消えて、いかめしい現実境が来る、見ると、傍に老祖母がうとうと[#「うとうと」に丸傍点]と睡っている。青黒い顔色、白茶けた頭髪、窪んだ眼、少し開いた口、細堅い手足――枯木のような骨を石塊のような肉で包んだ、古びた
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