鉄鉢と魚籃と
――其中日記から――
種田山頭火
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)すがた[#「すがた」に傍点]
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九月三日。
曇、さすがに厄日前後らしい天候。
朝は梅茶三杯ですます。身心を浄化するには何よりもこれがよろしい。
前栽の萩――それは一昨年黎々火君と共に裏山から移植したもの――が勢よく伸びて、びっしり蕾をつけている。早いのはぽつぽつ咲きだしている。萩は何となく好きな花だが、それは山萩にかぎる。葉にも花にも枝ぶりにも私たち日本人を惹きつけるものがある。
このごろの蚊のするどさ、そして蠅のはかなさ、いずれも死んでゆくもののすがた[#「すがた」に傍点]である。
午前は郵便を待ちつつ読書。
ハガキ三枚、黎々火君から、十返花君から、そして珍らしくも病秋兎死君から。雄郎和尚から絵葉書と詩歌[#「詩歌」に傍点]八月号清臨句集黎明[#「黎明」に傍点]、これは若狭紙を大判のまま使って、なかなか凝ったものである。
午後は近在行乞、家から家へ歩きまわっているうちに、何だか左胸部が痛むようなので、二時間ばか
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