独慎〔扉の言葉〕
種田山頭火
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【テキスト中に現れる記号について】
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(例)[#地付き](「三八九」第五集 昭和八年一月二十日発行)
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昭和八年一月一日、私はゆうぜんとしてひとり(いつもひとりだが)こここうしてかしこまっていた。
昨年は筑前の或る炭坑町で新年を迎えた。一昨年は熊本で、五年は久留米で、四年は広島で、三年は徳島で、二年は内海で、元年は味取で。――
一切は流転する。流転するから永遠である、ともいえる。流れるものは流れるがゆえに常に新らしい。生々死々、去々来々、そのなかから、或はそのなかへ、仏が示現したまうのである。
私はまだ『あなたまかせ』にまで帰納しきっていないことを恥じるが、与えられるものは、たとえそれがパンであろうと、石であろうと、何であろうとありがたく戴くだけの心がまえは持っているつもりである。
行乞の或る日、或る家で、ふと額を見たら、『独慎』と書いてあった。忘れられない語句である。これは論語から出ていると思うが、その意味は詮ずるところ、自分を欺かないということであろう。自分が自分に嘘をいわな
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