丘老来訪、三人でのんきぶりを発揮する。
寝苦しかつたが、よい月夜であつた。
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  中津
・街は花見の売出しも近いペンキぬりたて
  宇平居
・石に水を、春の夜にする
・あなたを待つとてまんまるい月の
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 三月十六日 好晴、中津。

早起、塩風呂にはいる、朝酒、味噌汁がおいしかつた。
宇平居でよいものは門と石仏。
昧々居徃訪、昧々君はさびしい人だがおとなしすぎる。
福沢先生の旧邸宅を観る、昔ながらの土蔵は忘れ難い。
柳が芽ぶいてゐる、もう筍が店頭に飾られてゐる、草餅を食べる、双葉山という酒を飲む(双葉山は近在の出生である)。
中津は鰒の本場だ、魚屋といふ魚屋には見事な鰒が並べられてある、それを眺めてゐたら、店番のおばさんから、だしぬけに、「おとうさん、鰒一本洗はうか!」と声をかけられた。
引札(俳諧乞食用としての)出来。
夜は句会、二丘、昧々、耕平、そして主人と私、あまりしやべつたので、さびしくなつた、かなしくさへなつた。

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・のぞいて芽柳のなつかしくも
  妙蓮寺
 お寺の大柳芽吹いてゆれて
 春寒の鰒を並べて売り
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