ら宮床まで歩く、緑平居はいつ来てもしたしい、香春岳もなつかしい、ボタ山も芽吹きさうな色彩をたゝへてゐる、天も春、地も春、人もまた春だ、夜のふけるまで話しつゞける、話しても話しても話がある。
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  炭坑地風景
・花ぐもりの炭車長う長うつらなり
・春風ぽこぽこ驢馬にまたがつて
  駅構内所見
・うらゝかに青い旗や赤い旗や
  炭坑地風景二句
・うらゝかな春空のボタ山かぶる山よ
・そこらぢゆう石炭だらけの石炭を拾ふてゐる
・水にそうてでこぼこのみちの草萌ゆる
  ボタ捨車
・ボタ山も芽ぐんでくるスキップ
・爆音、さくらはまだ開かない
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 三月十五日 晴、中津。

今日も身辺整理、やうやく文債書債を果してほつとする。
十時、お暇して、歩いて伊田へ、伊田から汽車で行橋へ、乗り替へて中津へ。
汽車では七曲りの快も味へなかつた、駅でさめ/″\と泣いてゐた若い女をあはれと思つた。
宇平居は数年前のそれだ、お嬢さんがさつそく御馳走して下さる、ありがたかつた。
宇平さんは医者としても市民としても忙がしい、忙がしくて病気をする暇もないといふ、結構々々。
夜、二
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