いら/\してたまらない、一人ぶら/\歩いては飲み、飲んでは歩いた、酔つぱらつた、腹がいつぱいになつて財布がからつぽになつた、たうとう待合室のベンチに寝込んでしまつた!

 四月二日 日本晴、埴生。

ふと眼が覚める、何だ、駅に寝てゐる、五時の汽車の出るところだ、帰るだけの乗車賃は持つてゐたけれど、まてよ、これから徒歩で帰らう! 黎君が知つたら、だからゆふべ早くお帰りなさいといつたではありませんかと笑ふだらう。
唐戸で十銭の朝飯を詰め込み、ゆつくりとしかもがつしりと歩き出した。――
しんじつうらゝかな日である、日本晴といはうか、節句晴といはうか(今日は旧の三月二日)。
長府の海岸は汐干狩の人々で賑うてゐた、誰もがぢつとしてはゐられないうらゝかさである、ノンキな旅人の私もその群にまじつて暫く遊んだ。
埴生で泊つた、まだ早いけれど、歩けば歩けたが(行程七里)。
合宿はうるさい事が多い、といつても詮のない事だけれど。
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  長府海岸
旅人わたしもしばしいつしよに貝を掘る
波音のうららかな草がよい寝床
松原伐りひらき新らしい仕事が始まる
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 四月三
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