由布岳
ふりかへる山のすがたの見えたり見えなかつたり
水分峠
誰にも逢はない山のてふてふ
てふてふうらうらどこまでついてくる
春もすつかり鶯うまくなつた
芽ぶく山をまへにどつしりすわる
散る花や咲く花やぽか/\歩く
水音の里ちかくなつてきた
こぼれ菜の花もをさないおもひで
芽ぶく木木の濡れてます/\うつくしく
旅のわびしさのトタン屋根たたく雨
[#ここで字下げ終わり]
三月廿三日 雨――曇――雨、日田。
早起、小雨ニなつたので早々立つ。
八時半の列車で日田へ(今日は歩きたかつたのが雨具の用意がないので、仕方がない)。
天ヶ瀬[#「天ヶ瀬」に傍点]には一夜泊りたかつた。
日田はいつ来てもよい土地だが、いつもよくないのが私の財布だ! 駅で暫らく雨宿りして、それから街を通りぬけて、四年ぶりに馬酔木居を訪れた、なつかしい。
散歩したり、鮠を釣つたり、のんびり遊ぶ、なか/\寒い、汽車にもスチーム、駅にもストーヴ、火鉢にも燠がたやされない。
日田地方は酒の安いところだつた、いひかへると、量りがよいのである、一杯ひつかけてもコツプでなく枡だ、いはゆる枡飲[#「枡飲」に傍点]である。
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