を持つてきてくれる(お茶受として沢庵も悪くない)、火鉢にたくさん火をいけてくれる、内湯がある、電燈が明るい。……
ハガキを出したついでに、さつそく一杯――二杯ひつかける、うまい酒だつた、また、よい酒でもあつた。
ほろ/\ほろ/\、だが、風がガタビシの硝子障子をたゝく音はさびしい/\。
こゝには水がない[#「水がない」に傍点]、温泉だけといふ、さりとは。――
別府由布院六里といふが、どうして/\、山行六里にはすつかり労れきつた、年はとりたくないものだわい!
今夜はゆつくり寝やう、ぐつすり睡れるだらう。

由布院はさびしい温泉だが、そこが好きだ、湯を浴びてはぽか/\ぼんやりしてゐるのがうれしい。

酔ひざめの水ではないので、酔ひざめの湯をがぶ/\飲んだ!

夜が更けて、雨になり風になつた、困つたな、ふと眼覚めて硝子障子越しに見ると、月夜になつてゐる、よかつた。
由布院がきつぜんと聳え立ち、朝月が近くかゝつてゐる、よいな。

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・湯けむりの梅のまつさかり
・うりものと書かれて岩のうららかな
・枯野風ふくお日様のぞいた
・のぼつたりくだつたり濡れても寒くはない雨の
・蕗の
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