すなほにつゝましく。

昨日を忘れよ、明日を思ふな、物事にこだはるな。
一切放下着、超越生活。

ラクダを羨む(新聞の北支記事を読んで)、食べることに苦労してゐると、ラクダに笑はれるやうになる!

カシラナリ(頭成)といふ地名は珍らしい。

ビンボウはカンシヤクの素!

 三月十九日 晴、浜脇、 [#割り注]一泊二飯八十銭。[#改行]一人一室一燈。[#割り注終わり]

早朝入浴して散歩する、あかつき[#「あかつき」に傍点]丸の出航を見送る。
この宿は悪くはないがうるさいので、浜脇のG屋へ移る、しづかでしんせつできれいで、夜具も賄もよい。
歩いたり、浴びたり、書いたり、飲んだり、――旅づかれで、詳しくいへば、人づかれ[#「人づかれ」に傍点]、湯づかれ[#「湯づかれ」に傍点]、酒づかれ[#「酒づかれ」に傍点]で、宵からぐつすり寝た、まことに近頃にない快眠であつた。

 三月二十日 晴、浜脇。

申分のないお天気、ほんたうに好い季節。
早く眼覚めて入浴、散歩、そして、……豊後富士の姿はうつくしい、朝にかゞやいた時は殊に。
宿の居心地がよいので、もう一日逗留することにして、行きあたりばつた
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