れど、世間人としてはさしたことではない)。
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人間臭[#「人間臭」に白三角傍点]
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四月十五日[#「四月十五日」に二重傍線] 晴曇不明。――
昨日の延長だ、まだピリオドがうてない、飲みあるく、――夜やうやく帰庵。
四月十六日[#「四月十六日」に二重傍線] 晴――曇。
庵中独臥、絶食[#「絶食」に傍点]、読書。
また山口の聯隊から出征するので、歓呼の声が渦巻く、その声が身心に沁み入る。……
四月十七日[#「四月十七日」に二重傍線] 曇、微雨。
謹慎、落ちついて雨を聴く。
四月十八日[#「四月十八日」に二重傍線] 曇。
午後は晴れたので山口へ行く、本を米に代へて戻る。
四日ぶりに御飯を食べることが出来た!
ほどよく飲んで食べて、つゝましく考へしづかに読み、一生懸命に作る、――それが何よりの楽しみであらう。
四月十九日[#「四月十九日」に二重傍線] 晴――曇。
春蝉が鳴きだした、夏ちかい温かさだ。
流し元の草の中に、捨芹が青々と花をつけてゐる、生きるものゝ生きる力のめざましさ、省みて恥ぢ入つた。
蕗を煮て食べる、うまい、ちしやに味噌をつけて食べる、うまい、何もかもうまいうまい!
夕方、野を逍遙して、野の花[#「野の花」に傍点]を観賞した、すみれ、きんぽうげ、菜の花、紫雲英、とり/″\にうつくしい、青草もうつくしい、虫もうつくしい。
今日はSを訪ねたいと思つたが、銭がないので止めた、骨肉といふものは離れてゐるとなつかしく逢へば嫌になる、そこに人生のなやみがある。……
寝苦しく悪夢に襲はれどほしだ。
四月廿日[#「四月廿日」に二重傍線] 曇。
小鳥の歌のほがらかさ、椿もをはりのうつくしさ。
――自覚自信――自粛自戒。――
今日は陰暦の三月廿日、明日へかけて秋穂地方は賑ふだらう、私も巡拝するつもりだつたが、先日の浪費で、その余裕をなくしてしまつた。
散歩、農学校に寄つて新聞を読ませて貰ふ、新聞を読まない日は飯を食べないやうな感じ。
近来痛切に自然の理法[#「自然の理法」に傍点]といふものを感じる、生々流転の相[#「生々流転の相」に傍点]を観じる。……
石油が切れたので宵から寝る、暗闇で句を作つたり直したりしてゐるうちに、いつとなく睡つた、そして夢中なほ作つたり直したりした。
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