わり]

 三月廿五日 曇――晴、二日市。

馬酔木君、さよなら、さよなら、馬酔木君。
酒の一日だつた、健よ、ありがたう。
バスで来て武蔵温泉のH屋ニ泊る、くだらない。

 三月廿六日 晴、晴、博多。

朝湯朝酒のゼイタクさだ、すみません。
十時の汽車で博多へ、百道のTさんを訪ねたが不在、そしてやうやく老司の少年院を尋ねあてたが、三洞さんは博多の事務所にゐられるといふ、引き返して事務所へ、さらに仮寓へまで連れて行つて貰つて、三年ぶりに懐かしい温容に接することが出来た、坊ちやん二人を連れての下宿生活である。
夕飯は家庭食堂で、それから暫らく散歩して帰宿。
三洞老! ふさはしい呼び方だ。
[#ここから3字下げ]
  三洞仮寓
うらは椿の落ちたまま
むつかしい因数分解の、赤い何の芽
[#ここで字下げ終わり]

 三月廿七日 曇、微雨、博多。

父と子とのほゝゑましい情景、涙ぐましいほどである。
悪筆をふりまはした。
午後、同道して酒壺洞君を訪ふ、何年ぶりの対談だらうか、君も老けたなと思つた。
酒をよばれることばかりだ、朝も酒、夕も酒、昨日も酒、今日も酒、私もたうとう酒に労れて来た!
今夜も泊めて貰ふ。

飯屋のおかみさんとルンペン(博多にて)
大衆酒場の女給さん

お大師様とルンペン(途上)
仏様と泥坊

 三月廿八日 晴、福岡。

ありがたう三洞さん、さよなら坊ちやん。
福岡市街をムチヤクチヤに歩きまはる、やたらに酒を呷る。……
夕方、ふたゝびTさんを訪問、折よく逢へて、お互にのんべい[#「のんべい」に傍点]だから気軽く酔うて、ぐつたり寝入つた。
Tさんが奥さんに投げるオイコラはよくない。

 三月廿九日 快晴、神湊。

バスで神の湊へ。――
俊和尚はエライ和尚でないだけ好きな和尚だ、清丸さんもよい坊さんになつてゐる、奥さんはもとより温良な家庭婦人だ、おいしいチリを御馳走して下さる、うどんもおいしかつた。

 三月三十日 八幡。

朝から飲む、ルンペン画家ともいふべきHさんに紹介される、五十未だ家をなさぬ彼は国際的放浪者らしい面影もある、彼は描き私は書いた、そして二人共に飲んだ。
午後出立、俊和尚の温情をしみ/″\感じた、バスで赤間へ、汽車で折尾まで、電車で八幡へ、Iさんの茶の間へころげこむと、また酒だ。
夜は鏡子居徃訪、おとなしく帰つておとなしく寝た。

 三月卅一日
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