道〔扉の言葉〕
種田山頭火

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【テキスト中に現れる記号について】

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(例)[#地付き](「三八九」第六集 昭和八年二月二十八日発行)
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 いつぞや、日向地方を行乞した時の出来事である。秋晴の午後、或る町はずれの酒屋で生一本の御馳走になった。下地は好きなり空腹でもあったので、ほろほろ気分になって宿のある方へ歩いていると、ぴこりと前に立ってお辞儀をした男があった、中年の、痩せて蒼白い、見るから神経質らしい顔の持主だった。
『あなたは禅宗の坊さんですか。……私の道はどこにありましょうか』
『道は前にあります、まっすぐにお行きなさい』
 私は或は路上問答を試みられたのかも知れないが、とにかく彼は私の即答に満足したらしく、彼の前にある道をまっすぐに行った。
 道は前にある、まっすぐに行こう。――これは私の信念である。この語句を裏書するだけの力量を私は具有していないけれど、この語句が暗示する意義は今でも間違っていないと信じている。
 句作の道――道としての句作についても同様の事がいえると思う。句材は随時随処にある、それをいかに把握す
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