た、初めて蚊帳を吊つた。

 五月廿七日[#「五月廿七日」に二重傍線] 晴――曇。

明けるより起きた。
煙火は海軍記念日だから。
すこしいら/\する、暮羊居から新聞を借りて来て読む、内閣改造問題で賑やかだ。
今日から単衣にする、わざと定型一句――
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さすらひの果はいづくぞ衣がへ
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ポストまで出かける、米は買へないからうどん玉を買うてすます、あはれ/\。
父子草、母子草、あゝこれもやりきれない。
胡瓜苗を植ゑる(下のY老人のところには茄子苗はなかつた)、此五本が私の食膳をどんなにゆたかにすることか。
旅の用意はとゝなうたが、さて、かんじんかなめのものが出来ない、ぢつとしてゐる、つらいね。
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人にはそれ/″\天分がある、私には私としての持前がある。
天分に随うて天分を活かし天分を楽しむ[#「天分に随うて天分を活かし天分を楽しむ」に傍点]、それが人生だ。
私は安んじて句を作らう、よねんなく私の句[#「私の句」に傍点]を作らう、よい句[#「よい句」に傍点]が出来たら、――きつと出来る。
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 五月廿八
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