、外は冬。
おちついて読書。――

 二月廿五日[#「二月廿五日」に二重傍線] 晴。

薄雪薄氷がうらゝかな日光で解けて雫する。
N、Fの二君、汽車辨当持参で来訪、あべこべに御馳走になつた、ありがたう。
樹明君から来信、あゝ私はどうすることも出来ない、すまない、私には何のあて[#「あて」に傍点]もない。
――炭がなくなつた、米もなくならうとしてゐる、命よ、むしろなくなつてしまへ!

 二月廿六日[#「二月廿六日」に二重傍線] 晴。

春が来たのに。――
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  おのれを語る
生活能力[#「生活能力」に傍点]を持たない私は生活意慾[#「生活意慾」に傍点]をも失ひつゝある、あたりまへすぎるみじめさだ。
業《ゴウ》、業、何事も業であると思ふ、私が苦悩しつゝ酒を飲むことも、食ふや食はずで句を作ることも。――
句を作る、よい句を作る、――その一事に私の存在はつながれてゐる。
酒を飲む、うまい酒を飲む、――その一事に私の生活はさゝへられてゐる。
[#ここで字下げ終わり]

 二月廿七日[#「二月廿七日」に二重傍線] 好晴。

霜、春の霜、太陽、春の太陽。
午後散歩する、といふよ
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