雨が落ちだしたので、濡れて戻る、いよ/\さびしく、さらにかなしく。
出かけたついでに石油を買ふ(ハガキや豆腐や醤油は買へなかつた)、そして十三日ぶりに入浴して不精髯を剃る、湯のあたゝかさで少しは憂欝のかたまりがやはらいだやうである。
もう猫柳が光つてゐる、春の先駆者らしい。
――身を以て俳句する[#「身を以て俳句する」に傍点]、それはよいとかわるいとかの問題ではない、幸不幸の問題ではない、業だ[#「業だ」に傍点]! カルマだ! どうにもならないものだ! そしてそれが私の宿命だ[#「私の宿命だ」に傍点]!
小雨があがつて、良い月夜になつた、私は今夜も睡れない。
――私はしだいに行乞流転時代のおちつきとまじめ[#「行乞流転時代のおちつきとまじめ」に傍点]とをとりかへしつゝある、たとへ後退であつても祝福すべき回復である。
此頃は真宗の報恩講、御灯ふかく鐘の声がこもつて、そこには老弱[#「弱」に「マヽ」の注記]の善男善女が額づいてゐた。
吉田絃二郎さんの身辺秋風[#「身辺秋風」に傍点]を読んで、その至情にうたれた、よいかな純化されたるセンチ[#「純化されたるセンチ」に傍点]!
純なるものは何で
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