、あさましさのかぎりだ、しつかりしてくれ、せめてもの気休めは夜ふけても戻つたことであつた。

 一月廿二日[#「一月廿二日」に二重傍線] 晴。

寒くなつた、あたりまへの寒さだが、寒がりの私は、炭もなくしたから、寝床にちゞこまつてゐる外ない。
終日不快、よく食べる私も一食したゞけだ。
支那人のやうにメイフアース――没法子――とうそぶいてはゐられない。

 一月廿三日[#「一月廿三日」に二重傍線] 晴。

大寒らしい寒さだ。
正午近く、T女来庵(彼女に感謝しないではないが、歓迎する気分にはなれない)、酒、下物、そして木炭まで持参には恐縮した、間もなく樹明君も来庵、飲みつゝ話す、話しつゝ飲む、酔はない[#「酔はない」に傍点]、酔へない[#「酔へない」に傍点]、夕方解散、よかつた、よかつた。
今夜は炬燵に寝ることが出来た、ありがたう。
どうでもかうでも、樹明君に苦い手紙[#「苦い手紙」に傍点]を書かなければならない。

 一月廿四日[#「一月廿四日」に二重傍線] 曇。

午前中は晴朗だつたが。――
午後、Nさん来訪、同道して出かける。
貧乏、貧乏、寒い寒い、食慾、食慾、うまいうまい。
食ふや食はずでも句を作らずにはゐられない[#「食ふや食はずでも句を作らずにはゐられない」に傍点]、業《ゴウ》だよ[#「だよ」に傍点]。

 一月廿五日[#「一月廿五日」に二重傍線] 曇。

やゝあたゝかくして小鳥のうた。
手紙を書く、書きたくない手紙だ、自己嫌忌、そして自己憐愍。
枯木を折る拍子に頭部に瘤をこしらへる、私自身が瘤のやうな存在[#「私自身が瘤のやうな存在」に傍点]である、ひとり苦笑する。
ポストへ出かける、トンビを質入して米を買ふ。……
私は癈人だ[#「私は癈人だ」に傍点]、だが[#「だが」に傍点]、私は良心的に行動したい[#「私は良心的に行動したい」に傍点]。

 一月廿六日[#「一月廿六日」に二重傍線] 曇、小雪。

良心沈静。
Kからうれしいたよりがあつた、ありがたや、めでたや。
[#ここから3字下げ]
うれしいたよりが小鳥のうたが冴えかへる
[#ここで字下げ終わり]
初孫が生まれて来るさうな! 私もいよ/\おぢいさんになる!
……今日はぞんぶんに飲むつもりで出かける、……久しぶりに泥酔して動けなくなり、Wさんの店に泊めて貰ふ。……

 一月廿七日[#「一月廿七日」に二重
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