たことのない胃は悲しんだことのない心臓のやうに」に傍点]、人間的でない[#「人間的でない」に傍点]。
何とぬくい寒だらう、炬燵なしでも何ともない。
一月十九日[#「一月十九日」に二重傍線] 曇――雨。
あたゝかすぎるほどあたゝかい、炭をなくした寒がりには何よりのうれしさである。
毎日、新聞を読みつゝ、新聞の力[#「新聞の力」に傍点]を感じる。
Yさんからうれしい手紙が来た(予期しなかつたゞけそれだけうれしさも大きかつた)、助かつた、助かつた、炭代としてあつたけれど、米代にした、炭はなくても米があれば落ちつける。
郵便局で、思ひがけなく藤津君に邂逅、F屋で痛飲する、めでたく和解して、昨年来の感情のもつれも解消してしまつた、酔に乗じて、打連れて、雨の中を中村君徃訪、生憎不在、父君母君と持参の酒と肴をひろげて四方山話(親馬鹿、子外道の情合を味ふ、中村君しつかりしたまへ、孝行をしなさいよ!)。
暮れるころ、ふりしきる雨を衝いて、渡しを渡り、藤津君の宅に転げ込み、勧められるまゝにたうとう泊つてしまつた。
終夜水音、――不眠読書。
酒が料理が、菓子が、飯が水が、すべてが餓え渇いてゐる五臓六腑にしみわたつたことである。
一月廿日[#「一月廿日」に二重傍線] 曇、時雨。
ぬくい/\、まるで四月ごろのぬくさだ。
しづかな邸宅だ、雨乞山の巌壁もわるくない、水音がよい、枯葦もよい、小鳥が囀りつゝ飛んで、閑寂味をひきたてる。――
送られて戻ると、ぢき、正午のサイレンが鳴りわたつた。
雨漏のあとのわびしさ。
さつそく御飯を炊いて、満腹の幸福[#「満腹の幸福」に傍点]、昼寝の安楽[#「昼寝の安楽」に傍点]をほしいまゝにする(冥加にあまるが、許していたゞかう)。
一月廿一日[#「一月廿一日」に二重傍線] 曇、小雨。
大寒入、冬がいよ/\真剣になる。
何となく憂欝、そのためでもあるまいが、御飯が出来損つた(めつたにないことで、そのことがまた憂欝を強める)。
午後、誘はれて、出張する樹明君のお伴をして山口へ行く、ほどよく飲んで帰つて来たが、それからがいけなかつた、私は樹明君を引き留めることが出来なかつば[#「つば」に「マヽ」の注記]かりではない、のこ/\跟いてまはつて、踏み入つてはならない場所へ踏み入つてしまつた!……何といふ卑しさ、だらしなさ、あゝ。……
彼の酔態は見てゐられない
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