覚めて、それからはどうしても寝つかれない、本を読んだり句を作つたりしたが、長い長い半夜であつた。
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事象の説明であつても[#「事象の説明であつても」に傍点]、それは同時に景象の描写である句[#「それは同時に景象の描写である句」に傍点]、さういふ句を作りたい、作らなければならない。
┌個性の文学
│ (個人主義を意味しない)
└境地の詩
(隠遁趣味ではない)
私はうたふ、小鳥と共にうたはう。
(私の句作態度としては)
石を磨く[#「石を磨く」に傍点]。――
(句作の苦しみと歓び)
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一月十七日[#「一月十七日」に二重傍線] 晴。
日本晴! 天地悠久。
日が照つてあたゝかい、梅の蕾がほころぶだらう。
昨日、政府が発表した歴史的対支重大声明を読む、我々はこゝに日本国民の使命を新たに自覚し大和民族の将来を再認識して再出発したのである。
小鳥をうつな、うつてくれるな、空気銃を持ちあるく青年たちよ、小鳥をおびやかさないで、たのしくうたはせようではないか。
おごそかにしてあたゝかき態度[#「おごそかにしてあたゝかき態度」に傍点]、自他に対して生活的にも世間的にも。
午後は散歩、八方原橋を渡つて北へ北へ、途中で数句拾ふ、W店に寄つて一杯また一杯! 好日、好日!
春が近い、といふよりも、春のやうなうらゝかさであつた、ぽか/\あたゝかであつた。
その日その日のくらしが楽であるやうに願ふ、一日の憂は一日にて足れり[#「一日の憂は一日にて足れり」に傍点]、一日の幸もまた一日で十分だ[#「一日の幸もまた一日で十分だ」に傍点]。
今夜も炬燵があつてうれしい。
深夜の水を汲みあげて、腹いつぱい飲んだ。
一月十八日[#「一月十八日」に二重傍線] 曇――雨。
好晴で爽快だつたが、間もなく曇つて陰欝で、そしてぬくい雨が降りだした。
朝から渋茶ばかりがぶ/\飲む、また絶食である、野菜少々食べる。
――寝るより外はなかりけり[#「寝るより外はなかりけり」に傍点]、といつたあんばいで、寝床の中で漫読。――
餓ほど[#「餓ほど」に傍点](死もさうであるが[#「死もさうであるが」に傍点])人間をまじめに立ちかへらせるものはない[#「人間をまじめに立ちかへらせるものはない」に傍点]、餓えたことのない胃は悲しんだことのない心臓のやうに[#「餓え
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