病中の奥さんにはお気の毒だけれど泊めて貰ふ。
緑平老としみ/″\話す。……

 八月廿九日[#「八月廿九日」に二重傍線] 晴。

早起、話しても、話しても、話しきれないものがある。
十時の汽車で門司へ、岔水居に立ち寄る、若い奥さんがこゝろよく迎へて下さる。
飲む、話す、そして泊る、岔水君はいつもかはらぬ人だとつくづく思ふ、洗練された都会人だ。

 八月卅日[#「八月卅日」に二重傍線] 曇。

あまり品行方正だつたからか、たうとうからだをいためたらしい!
朝、お暇乞する。
埠頭で青島避難民を満載した泰山丸を迎へる、どこへ行つても戦時風景だが、関門はとりわけてその色彩が濃く眼にしみ入る。
役所に黎君徃訪。
正午、下関に渡り、映画見物はやめにして、唐戸から電車で長府の楽園地へ、一浴して一睡。
夕を待つて黎々火居を敲く、泊めて貰ふ。
今日も暑苦しかった。
さぞや戦地は辛からう。――

 八月卅一日[#「八月卅一日」に二重傍線] 晴。

黎君は早朝出勤、私はゆつくりして、歩いて長府駅から乗車、途中嘉川で下車、伊藤さんの宅に寄つて少憩、句集を発送する。
夕方帰庵、暮羊君ビールを持つて来庵。

 九
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