らゝかさ、一天雲なし、気分ほがらか。
書かなければならない、出さなければならない手紙があるのだけれど、今日も果さなかつた、播いたものは刈らなければならないのに、私はどうしてこんなに我がまゝなのだらう。
終日独坐[#「終日独坐」に傍点]、無言行[#「無言行」に傍点]。
良い月夜だつた、霜月十三夜である。
十二月十六日[#「十二月十六日」に二重傍線] 霜晴。
昨夜の夢の名残が嫌なおもひをさせる。……
その後[#「その後」に傍点]一ヶ月経つた、私はいよ/\落ちつく。……
やうやくにして、長い悲しい恥づかしい手紙を書きあげて、さつそく投函した、健よ健よ許してくれ許してくれ!
沈欝たへがたきにたへた、あゝ苦しい。
落ちたるを拾ふといふよりも、捨てられたる物を生かす気持[#「捨てられたる物を生かす気持」に傍点]で、また一つ拾うて戻つた。
大根一本二銭、おろしたり煮たり漬たり、なんぼ大根好きの私でも一度や二度では食べきれない。
今夜も良い月夜、玲瓏として冴えわたる月光がおのづから天地の悠久[#「天地の悠久」に傍点]を考へさせた、いつまでも睡れなかつた。
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