すぐ起きる、明星はだいぶ昇つてゐるが、山の端がうつすら明るいだけ、しかし、朝月が冴えてゐるので暗くはない、――昭和十二年十月二十四日といふ今日の好き日をことほぐ。
世はさま/″\人はいろ/\だとつく/″\思ふ、たとへば、こんどの句集についても、申込んで来たので送つてあげたのに、礼状さへもよこさ人[#「さ人」に「マヽ」の注記]がずゐぶん多い、そしてさういふ人はたいがい青年らしい(私がかうまで憤慨するのも自分に関した事柄であり、物質的なこだはりがあるからかも知れない、お互、反省しよう)。
――おかげさまで[#「おかげさまで」に傍点]、――といふ言葉は尊い、私たちが飲食するのも読書するのも散歩するのも、すべて生きものが生きてゐるのは、みんな何かのおかげ[#「何かのおかげ」に傍点]である、その何かに感謝し報恩したいと努めることに人生の意義がある。
例によつてポストまで、学校で新聞を読み樹明君に会ふ。
路傍の草の中で仔猫が断末魔の悲鳴をあげてゐた、胸が痛くなつた。
樹明君を待ちつつ支度をする、今日もまた松茸に豆腐のチリだ、待ちきれないで一杯やつてゐると、めづらしくも女と子供の声が山の方へ行く、何
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