ないではゐられない。
昨日も今日も樹明君の友情に感泣する、それはありがたいともありがたい手紙であつた。
酒を飲まないでよく睡ることが出来た。
九月十六日[#「九月十六日」に二重傍線] 晴。
雑務、主人のワカラナサ加減にウンザリする。
夕方たうとうカンシヤクバクハツ、サヨナラをする、サツパリした。
あるだけ飲む、酔ひつぶれてしまつた、善哉々々。
九月十七日[#「九月十七日」に二重傍線] 晴。
地橙孫君徃訪、不在、ふと思ひついて、女学校に支草を訪ふ、句集を数冊売つて貰ふ。
関日社のH君を訪ねる、おでんやでしばらく話す。
夜は支草居徃訪。
H屋といふ宿は泊れるだけだが、安くて清潔で、遠慮がなくてよろしい。
九月十八日[#「九月十八日」に二重傍線] 曇。
門司に渡つて、岔水君徃訪、さらに黎君徃訪。
九月十九日[#「九月十九日」に二重傍線] 晴。
電車で黎々火居へ、いつしよに塩風呂にはいつてから別れる、一時の汽車で小郡へ、やれ/\やれ/\。
九月廿日[#「九月廿日」に二重傍線]――十月八日[#「十月八日」に二重傍線]
晴れたり曇つたり、澄んだり濁つたり。――
十月九日[#「十月九日」に二重傍線] 晴。
沈欝、そこらを散歩して、農学校に立寄り、樹明君から五十銭借りる、石油を買ひコツプ酒を呷る。
色即是空[#「色即是空」に傍点]、空即是色[#「空即是色」に傍点]、――私はこの境地に向ひつゝある、そこまで徹したいと念じる、現象に即して実在を観なければならないと思ふ[#「現象に即して実在を観なければならないと思ふ」に傍点]。
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□俳句性は――
表現上では、簡素[#「簡素」に傍点]、それは五七五の定型に限らない。
内容についていへば、単純[#「単純」に傍点]、必ずしも季感を要しない。
□俳句は個性芸術[#「個性芸術」に傍点]、心境の文学[#「心境の文学」に傍点]である、そして人間そのものをうたふよりも自然をうたふ――自然を通して、自然の風物に即して人間を表現することに特徴づけられる、生活をうたふにしても、人間を自然として鑑賞する境地に立つてうたはなければならない。
俳人は現実に没入しながらも、しかも現実を超越してゐなければならない。
[#ここで字下げ終わり]
十月十日[#「十月十日」に二重傍線] 好い秋日和。
終日身辺整理、だん/\落ちついてきた。
私の好きな茶の花が咲きだした。
秋風の裏藪がざわめく。
今夜も眠れない。――
十月十一日[#「十月十一日」に二重傍線] 晴。
秋暑し、おちついて読む。
熟柿がうまい、山の鴉もやつてきて食べる。
午後、ポストまで出かける、W屋で一杯。
道べりの蓼紅葉がうつくしい。
神保さんの妻君が子供を連れて柿もぎに来た、今年はだいぶなることはなつたけれど大方は落ちた、それでも籠にいつぱい百ぢかくあつたらう。
今夜は幸にして眠れた。
不眠は我儘な不幸である。
十月十二日[#「十月十二日」に二重傍線] 雨、後晴。
ひとりしんみりと籠つてゐた。
整理しても、整理しても、整理しきれないものがある、それが私のなげきなやみ[#「私のなげきなやみ」に傍点]となるのだ、整理せよ、整理せよ。
――無くなつた、何もかも無くなつた、銭はもとより、米も醤油も、マツチまでも無くなつてしまつた。
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私にあつては、酒は好き嫌ひの問題ではない、その有無が生死となるのである。
私が酒をやめようやめようと努めながらもやめることが出来ないのは、必ずしも私の薄志弱行ばかりではない。
酒は仏か鬼か。
とにかく私は酒と心中するのだ!
[#ここで字下げ終わり]
十月十三日[#「十月十三日」に二重傍線] 曇。
早起、朝寒、火が恋しくなつた。
樹明君を訪ねる、新聞を読ませて貰ふ。
今日から国民総動員週間。
午後、街へ出かける、I店で米を借りる、Y屋で飲む(久しぶりの山頭火的飲ツ振だつた)。
夜は句集発送をかたづける、何でもないことだけれど、整理のあとのこゝろよさ。
今夜はほどよう睡れさうなのに、なか/\睡れなかつた。
事変句数首をまとめた。
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今日の買物
一金六銭 菜葉二把
一金六十五銭 切手端書
一金十五銭 石油三合
一金五銭 線香
一金三十弐銭 なでしこ
一金九銭 味噌
一金十七銭 煮干
一金八銭 大根
(大根一本七[#「七」に「マヽ」の注記]銭とは高いぞ)
[#ここで字下げ終わり]
十月十四日[#「十月十四日」に二重傍線] 秋晴。
身心沈静。
今日は小学校の運動会、子供も親達もうれしさうにお辨当を持つて行く、日本晴で何よりだ、私までうれしい気分になる、まことに楽しい行[#「行」
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