月廿日[#「八月廿日」に二重傍線] 晴。
朝はまつたく秋だ、癈墟をさまよふやうな生存だ。
陰暦七月十五日、せつかくの月も雲があつて冴えなかつた、嫌な夢ばかり見つゞけた。
[#ここから1字下げ]
酔境、無是非、没得失。
生死空々、去来寂々。
水があれば、――米があれば、――そして酒があれば。――
[#ここで字下げ終わり]
八月廿一日[#「八月廿一日」に二重傍線] 曇――雨――晴。
さびしくかなしく(銭がないせいばかりではない)。
久しぶりのよい雨であつた、めつきり涼しくなつた。
澄太君から、句集柿の葉[#「柿の葉」に傍点]発送の通知、澄太君ありがたう、ありがたう。
よい月夜、たうとうランプをつけないですました。
八月廿二日[#「八月廿二日」に二重傍線] 曇――晴。
悪夢から覚めて直ぐ起きた、あまりに早かつたが。
語録を読む、先聖古徳の行持綿々密々なるにうたれる、省みて私は。――
文字通りの、米と塩だけになつた。
夕方、孤愁に堪へかねて四日ぶりに外出、散歩がてら駅まで行く、句集はまだ来てゐない、帰途M屋で一杯ひつかけ、折から昇る月を背負うて戻る。
徹夜不眠、幸にして三時頃新聞が来た。
八月廿三日[#「八月廿三日」に二重傍線] 晴。
身心が暑苦しい。
句集到着、澄太君の友情そのものにぶつつかつたやうに、ありがたくうれしかつた。
午後、樹明君と暮羊君と来庵、酒を買うて祝して下さる。
句集を銭に代へて、久しぶりに山口へ行く、酔うて泊る。
八月廿四日[#「八月廿四日」に二重傍線] 晴。
午前帰庵。
アルコールのおかげで動けない。……
八月廿五日[#「八月廿五日」に二重傍線] 晴。
Kから来信、ありがたう。
句集刊行自祝の意味で、そしてまた、小郡に於ける最後の遊楽のつもりで、私としては贅沢に飲む、酔ふ、たうとう酔ひつぶれてしまつた、ぼうぼう、ばくばく、自我もなく天地もなし、一切空。
八月廿六日[#「八月廿六日」に二重傍線] 晴。
急に思ひ立つて(旅費が出来たので)、九時の列車で九州へ下る。――
十二時、門司の銀行に岔水君を訪ねる、いつもかはらぬ岔水君、なつかしい岔水君だ、黎々火君にも逢うて食事を共にする、三時、警察署に青城子君を訪ねる、不在、堤さんも不在、さらに井上さんを訪ねて御馳走になる、鏡子居訪問、こゝでも御馳走になる、井上さんも鏡子君
前へ
次へ
全33ページ中4ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング