飲む、アルコールなしでは夢がなさすぎる私の生活だ!
あちらこちら彷徨、今夜も湯田泊。
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○流転しながらも安定を失はざれ。
○動中静。
○謙遜であれ、自他に対して。
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十月廿八日[#「十月廿八日」に二重傍線] 曇。
ぼう/\として、歩いて戻る、……いつものやうに、つゝましく、わびしく。……
十月廿九日[#「十月廿九日」に二重傍線] 曇。
降りさうで降らない、だん/\晴れる。
――生死の問題がこびりついて離れない、死を考へるはそれだけ生に執着してゐるのだ、生死超脱[#「生死超脱」に傍点]の境地には生死の思念はないのだ。――
十月三十日[#「十月三十日」に二重傍線] 雨――曇。
久しぶりの雨、秋らしくしよう/\と降る。
身心沈静。
迷悟共に放下せよ[#「迷悟共に放下せよ」に傍点]、一切空に徹せよ[#「一切空に徹せよ」に傍点]。
山野逍遙遊、雑木紅葉のうつくしさ、秋の野草のうつくしさ。
菊の花のよろしさは、りんだうのよろしさは。
純真[#「純真」に傍点]と情熱[#「情熱」に傍点]と、そして意力[#「意力」に傍点]と。
十月卅一日[#「十月卅一日」に二重傍線] 曇。
たよりはうれしい、木の葉がうつくしいやうに。
散歩、一杯また一杯、一歩一杯[#「一歩一杯」に傍点]とでもいはうか。
樹明君の案内を受けたので、農学校の運動会へ出かけたが面白くないので(私はスポーツ、一切の勝負事に興味を失つてゐる)、早々帰庵して読書。
生きものが――むろん人間が――私が――生きてゆくことはなか/\むつかしい、木の実草の実を食べて、それですむならばどんなにラクだらう、などゝ考へる。
閑居句作[#「閑居句作」に傍点]、その外に私の生きる道があるかよ。
読みたい本があつて、そして酔へる酒[#「酔へる酒」に傍点]があるならば、そこは極楽だ。
十一月一日[#「十一月一日」に二重傍線] 曇、時雨。
早起、安静。
詩作報国[#「詩作報国」に傍点]をおもふ、日本を歌へ[#「日本を歌へ」に傍点]! 歌はなければならない[#「歌はなければならない」に傍点]。
純情[#「純情」に傍点]を失ふなかれ、正直であれ、自他に対して。
散歩がてらポストへ。
――ふらふら湯田をさまよふた、そして自分をなくしてしまつた。――
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