間は生れて最初が食慾で、そして老いて最後が食慾だ。
□貧乏は反省をよびおこす。
食べるものも無くなると、本来の自分があらはれる。
[#ここで字下げ終わり]
一月廿六日[#「一月廿六日」に二重傍線] 晴。
小春うらゝかに梅の散る日。
熟睡したので身心やすらか。
朝飯はうどんで、昼飯はぬいて、夕飯は大根で、――それしかないので。――
正午のサイレンが鳴つた、今日もKからの手紙は待ちぼけか!
終日庵中独坐。
W老人が来て何かと話しかける、買ひかぶられてゐる私は返答に困つた。……
今夜は燈火のないことが私にたくさん句を作らせた、明け方ちかくまで睡れなかつた。
うつくしい月だつた、感慨にふけらざるをえなかつた。
一月廿七日[#「一月廿七日」に二重傍線] 晴。
身心沈静。
明暗、清濁、濃淡の間を私は彷徨してゐる、そして句を拾ふのだ、いや、句を吐くのだ!
やうやくKから手紙が来たのでほつとする、さつそく出かけて、払へるだけ払ひ買へるだけ買ふ。
ゆつくり飲んで食べる、理髪して入浴する。
四日ぶりに御飯を炊く、うれしかつた、ありがたかつた、おいしかつた。
生きてゐるよろこび、死なゝいでゐる
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