――
何しろ一時過ぎて帰つて来て、それから水を汲むやら米を磨ぐやら、……とやかくするうちに東の空が白みだした、……そして寝床にはいつた。
今朝、考へて、やつぱり昨夜は飲みすぎだつたと思ふ、今までのやうにダラシなくはなかつたけれど、浪費は浪費として反省すべきものがあると思ふ、すまなかつた、/\。
落ちついて読書。
六月廿日[#「六月廿日」に二重傍線] 晴。
ちつとも降らない梅雨季。
Zさんがやつて来て、窓の筍――若竹になりつゝあつたのを切り採つた、私の朝夕の楽しみ[#「私の朝夕の楽しみ」に傍点]を奪はれて、私は憤慨した、Zさん、自然人生に対してデリカシーを持つてゐない人間は軽蔑すべきかな。
門外不出、終日無言。
六月廿一日[#「六月廿一日」に二重傍線] 晴。
いよ/\降らない。
ポストへ、そしてまた湯屋へ。
途中、Oさんの豚小屋を見物した、彼等は食べて寝て、そして子を生んで、最後は屠られるのである、彼等がガツ/\食べてゐる有様や、数多くの仔にせがまれてゐる有様を見てゐると、何となくアンタンたるものを感じる、人間だつて、けつきよくは、おんなじ宿命を負はされてゐる!
のそり/\と藪から蟇が出て来た、お前も一匹、さびしいか、私は一人、さびしいよ。
――酒なし煙草なし、毎日、白粥をすすつてゐる、昨日も今日も、そして明日もまた。――
夜、久しぶりにNさん来訪、月のさしこむ縁で話す、タバコを喫はせて貰つた。
小遣銭のない生活[#「小遣銭のない生活」に傍点]はよろしくありませんね。
六月廿二日[#「六月廿二日」に二重傍線] 晴。
まづしく、つゝましく、わびしく。
散歩、面談の用事が出来て谷川君徃訪、ついでにNさん徃訪、酒と飯とをよばれる、画賛を書かされる、それから沙魚釣、釣れないので、鰕と蜆貝とをあさつて戻つた。
谷川君来訪、酒と魚とを持つて――酔うて二人は街を飲み歩いた、――酔中彷徨の果ては――脱線しないで無事帰庵、――よかつた、よかつた。
六月廿三日[#「六月廿三日」に二重傍線] 曇。
昨夜の延長だ、酒、酒、恥、恥、夢、夢。
六月廿四日[#「六月廿四日」に二重傍線] 晴。
終日無言行。
おとなしく読書。
反省がちく/\身心を刺す。……
六月廿五日[#「六月廿五日」に二重傍線] 曇。
身心沈静。
Kから、いつものやうにきちんときまつた手紙が来た。
さつそく出かけて、払へるだけ払ひ、買へるだけ買ふ。
Kよ、ありがたう、ありがたう。
借金を返した気持は何ともいへない。
午後、またポストへ出かける、そして湯田まで思はず行つてしまつた。
酒と温泉とに対しては私はグニヤグニヤフニヤフニヤだ!
Kさんから菊正一本頂戴した、悪筆の代償として。
S屋に泊る、アルコールのおかげで、温浴のおかげで、そしてまた同宿連中のあけつぱなしのY談のおかげで、ぐつすりと睡れた。
六月廿六日[#「六月廿六日」に二重傍線] 雨、雨。
宿酔。――
何だか身心が変調なので、いそいで帰庵。
フラフラする。――
六月廿七日[#「六月廿七日」に二重傍線] 雨、雨、雨。
臥床、読書、自己を省察して冷汗を流す。
六月廿八日[#「六月廿八日」に二重傍線] 曇、時々晴。
畑仕事、胡瓜やトマトに垣をこしらへてやる。
昨日も今日も閑居、読書三昧、無言行。
酒なく煙草なく燈火なし。……
六月廿九日[#「六月廿九日」に二重傍線] 曇、そして雨。
朝、いつぞやの花売爺さんが来て、縞萱を所望した、代金として八銭くれていつた。
ポストへ、一杯ひつかける、石油を買ひ煙草を買ふ、みんなカケである。
くちなしの花[#「くちなしの花」に傍点]を活ける、くちなしの花はよいかな。
Jさんが筍をすぽり/\と切る、彼の所有だから文句はいへないけれど、人間には審美的感情がないと困るな!
降る/\、降れ/\、梅雨は梅雨らしく降るのがよいとは思ふけれど、屋根の漏るには閉口する、家だけではない[#「家だけではない」に傍点]、私までが漏るやうな[#「私までが漏るやうな」に傍点]。――
五年前――私がこゝに住みついてから※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]木した夾竹桃が最初の花を持つた――その頃の自分が考へられる、私の身心は荒んでしまつた。
当分は禁足[#「禁足」に傍点]の事。――
――奇妙な夢を見た、それはまことにグロテスクな夢だつた、私の胸には悪獣[#「悪獣」に傍点]が穴籠りしてゐるらしい。
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┌求むるなかれ
│貪るなかれ
└持つなかれ
┌没我
│忘我
└無我
[#ここで字下げ終わり]
六月三十日[#「六月三十日」に二重傍線] 雨。
今日も郵便が来ない、さらにさびしい日である。
先日から新聞を購読してゐる(今
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