みすぎて困る、だいたい根性が卑しいからでもあるが、放浪がさうさせたのでもある。
愉快な一夜だつた、ほろ酔人生の一場面だつた。
樹明君は早くから鼾をかいてゐる、私はおそくまで睡れなかつた、私には邪気が多いらしい。
四月廿六日[#「四月廿六日」に二重傍線] 晴。
早く起きて、そのまゝ戻る。
藪風がさわがしく、そゞろ肌寒い。
身心安静、珍重々々。
斎藤さんからなつかしいたよりがあつた、野蕗君からも近々訪問するといふうれしいたより。
午後は散歩、仁保津方面を歩きまはつた、ちようど氏神様の御年祭で、河原にテントを張り余興などいろ/\あるま[#「ま」に「マヽ」の注記]しい、男も女もおぢいさんもおばあさんも子も孫も、どつさり御馳走を携へて集つてくる、村のピクニツク[#「村のピクニツク」に傍点]、うらやましかつた。
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自己闘争記[#「自己闘争記」に白三角傍点]
酔ひざめの記[#「酔ひざめの記」に白三角傍点]
[#ここで字下げ終わり]
四月廿七日[#「四月廿七日」に二重傍線] 晴。
句稿整理、完成、ほつとする。
揮毫、いつものやうに、悪筆の乱筆[#「悪筆の乱筆」に傍点]。
空罎、古雑誌、襤褸を売る、五十銭!
さつそく街へ、K店で少々借りて湯田へ、例のS屋に泊る、一宿二飯で四十六銭。
湯はよいなあと嘆息の欠伸[#「嘆息の欠伸」に傍点]を洩らしつつ。
樹明君が不在中に来てくれたらしい、こんな置文句があつた。――
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また散歩(これは私)
ケツコウ/\ ハルダモノ
午後四時 樹来
アゲ二切タベタ
庵のニホヒガシタ
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四月廿八日[#「四月廿八日」に二重傍線] 曇。
朝湯朝酒(朝々はないが!)。
八時帰庵、野蕗君を待つ。
昼御飯を食べてから散歩がてら、駅まで出迎へたが、失望々々。
笹鳴、ずゐぶん下手糞な鶯だ、でも日にましうまくなる、勉強々々、私の句作もそのやうに。
四月廿九日[#「四月廿九日」に二重傍線] 晴。
日本晴、天長節、万歳万々歳。
春寒、なか/\寒い。
節度正しい生活[#「節度正しい生活」に傍点]、平凡にして真実[#「平凡にして真実」に傍点]。
樹明君から来信、一献傾けたいから用意して置いてくれとの事、さつそく在中の五十銭銀貨二枚を持つて街へ出かける、酒、魚、御馳走を拵らへる、三時頃から六時頃まで、めでたきさかもり。
かういふ会合でなければならない、おかげで、のんびりとした。
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感激[#「感激」に傍点]は興奮[#「興奮」に傍点]ではない。
観念[#「観念」に傍点]から俳句は生れない。
俳句は体験から生れなければならない。
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四月三十日[#「四月三十日」に二重傍線] 曇――雨。
身心平静、何よりのよろこびである。
旧の三月廿日、秋穂はお大師まゐりで賑ふのだが、かういふお天気では人出が減るだらう、私も見合せた(小遣銭もないから)。
ほんたうの信心には雨も風もないけれど。――
待つてゐるものが来ない。
しめやかな雨。
午後、ポストへ、ついでに入浴。
一杯ひつかけてほろ/\、ぐつすりと寝た。
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御飯がおいしい――食べるものが何でもうまい――それは人生の幸福中の幸福である。
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五月一日[#「五月一日」に二重傍線] 雨。
早起、身辺整理。
ありがたい手紙が二つ、緑老から、黙君から、それは涙のこぼれる手紙だつた。
秋穂まゐりが出来ないので湯田へ行く、お大師様の御利益よりも温泉のそれがテキメンだつた。
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払ふべきもの払へるだけ払ふたうれしさ。
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五月二日[#「五月二日」に二重傍線] 三日[#「三日」に二重傍線] 雨――曇――晴。
湯田滞在。
時計を売つて、酒と菓子とをルンペン君に奢つた、みんないつしよにうたうて笑つた。
五月四日[#「五月四日」に二重傍線] 五日[#「五日」に二重傍線] 晴。
帰庵。
がつかりして寝つゞけた。――
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何物にも囚はるゝなかれ[#「何物にも囚はるゝなかれ」に傍点]。
殊に自己に対して[#「殊に自己に対して」に傍点]。
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五月六日[#「五月六日」に二重傍線] 晴。
五月、あゝ五月。
やつと寝床から起きあがつた。――
灯火なし、眠れない、苦しかつた。
五月七日[#「五月七日」に二重傍線] 曇。
身心不安、食慾減退。
樹明君から来信、よい事があるといふ、夕方から出かける、御馳走を頂戴する、敬君待つても来らず、泊る。
五月八日[#「五月八日」に二重傍線] 晴――曇――雨。
未明帰庵。
父の第十七回忌、ひとりさびしく読経し回向する、
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