起沈静、よろしい/\。
春寒、春も[#「も」に傍点]寒いね!
人事に囚はるゝなかれ。
昼寝はよろしい、夢はよろしくない。
花見のどよめきがきこえる、――あゝそれなのに、それなのに。――
Kへ手紙を書く。
――こけつまろびつ――とろ/\どろ/\――何が何やら。――
酒乱、醜態、あゝあゝ、……恥を知れ、恥を、……死んでしまひたい、……馬鹿、阿呆。
……………………
[#ここから1字下げ]
かへりみて[#「かへりみて」に白三角傍点]、死あるのみ[#「死あるのみ」に白三角傍点]。
醜い生存[#「醜い生存」に白三角傍点]。
死ぬるまでは繰り返されるでもあらう悪行。
愚劣、醜悪、愚劣、醜悪。
死にたくても死ねない矛盾[#「死にたくても死ねない矛盾」に白三角傍点]。
矛盾に矛盾をかさねてゐる毎日毎夜。
[#ここで字下げ終わり]
四月四日[#「四月四日」に二重傍線] 晴曇不明!
昨夜の延長、宿酔ふら/\、湯田へ。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
『健からの手紙、緑平老からの手紙、それを読んで恥ぢないならば、泣かないならば、ほんぜんとして本心に立ちかへらないならば、私は山頭火ではない、人間ではない(これは九日の朝のことである、私はどうかしてゐる)。』
[#ここで字下げ終わり]
湯田はよかつた、あたゝかい湯が私のつきつめた身心をほごしてくれた、うれしかつた。
安宿S屋に泊る、昼は遊園の猿を見た、そして夜は漫才大会へ行つた。
同宿五六人、罪のない猥談が面白かつた。
ほんたうに遊ぶ気分[#「ほんたうに遊ぶ気分」に傍点]、さういふ気分になりたい。
四月五日[#「四月五日」に二重傍線] 晴。
歩いて戻つた、塘の桜は半分ばかり咲いてゐたけれど、私はうつ/\としてゐるばかりだつた。
留守中客来、敬君と樹明君とがやつて来て、一杯飲んで待つてゐたらしい。
その残物を頂戴する。
夜は暮羊君の宅に招待された、よい酒であつた、うれしい酒であつた。
『飢』
[#ここから3字下げ]
食べる物がない一日
水を飲む
遊園地の猿公
温泉浴
[#ここで字下げ終わり]
四月六日[#「四月六日」に二重傍線]
憂欝たへがたかつた、立つても居てもたへきれないものがあつた。……
Nさん来訪、いつしよに散歩、そして酒、酒、酒、みだれてあばれた。……
まつたく酒狂[#「酒狂」に白三角傍点]だ、虎でなくて狼だ。
……………………
四月七日[#「四月七日」に二重傍線]、八日[#「八日」に二重傍線]
身心バラ/\だ、夢とも現とも何ともいへない気分だ。
四月九日[#「四月九日」に二重傍線] 晴。
親しい友の手紙に鞭うたれて、湯田まで散歩。
一浴一杯[#「一浴一杯」に傍点]、身心やゝ安定。
帰来して庵中独坐。
四月十日[#「四月十日」に二重傍線] 晴。
さくらがちる。
だん/\平静になる。
蕗の香、若布の香、御馳走々々々。
四月十一日[#「四月十一日」に二重傍線] 晴。
山はドンチヤン、花見のまつ盛り。
私はぢつとして寝てゐるより外はない。
夕方散歩、よかつた、よかつた。
四月十二日[#「四月十二日」に二重傍線] 晴。
いよ/\落ちついた、合掌。
春蝉の声を聞いた。
鴉がうたれて死んだ、むしろ私を殺してくれるとよいのに!
他人に頼るなかれ、自分を信ぜよ。
せめて晩年だけなりとも人並に生きたい。
ほんたうの句を作れ[#「ほんたうの句を作れ」に傍点]、山頭火の句を作れ[#「山頭火の句を作れ」に傍点]。
人間の真実をぶちまけて人間を詠へ[#「人間の真実をぶちまけて人間を詠へ」に傍点]、山頭火を詠へ[#「山頭火を詠へ」に傍点]。
[#ここから1字下げ]
心を広く強く[#「心を広く強く」に傍点]、高く[#「高く」に傍点]。
横に広く[#「横に広く」に傍点]――ではない。
縦に深く[#「縦に深く」に傍点]――である。
私の場合では。――
[#ここで字下げ終わり]
四月十三日[#「四月十三日」に二重傍線] 晴――曇。
身心いよ/\安静、やうやく自分をとりもどした。
絶対禁酒はとうてい出来さうにもないが、節酒はどうやら出来さうである。
酒を味へ[#「酒を味へ」に傍点]、酒に敗けるな[#「酒に敗けるな」に傍点]。
克己[#「克己」に傍点]、克己[#「克己」に傍点]、克己[#「克己」に傍点]、克己が一切だ[#「克己が一切だ」に傍点]。
慊らない、何もかも――私自身に対して、そして句作の場合は殊に。――
風、風、風だつた、日中吹き通して、夜中も吹きつゞけた。
屋根の一部が吹きとばされる。
桜も散つてしまつたらう。
まことに花時風雨多である。
風の中の散歩も一興だつた、山はいつもうれしいものである。
寝苦しかつた。……
[#ここから1字下げ]
貪らず、惴[#「
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