は矛盾として。――
何事も天真爛漫[#「天真爛漫」に傍点]に、隠さず飾らず、ムキダシで生きてゆけ。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
□物そのものになりきれ[#「物そのものになりきれ」に傍点]。
虚無[#「虚無」に傍点]ならば虚無そのものに。
□自然そのものをそのまゝ味はひ詠ふ。
□表現は現象を越えてはいけない。
表現は現象に留つてゐてはいけない。
この矛盾[#「矛盾」に傍点]が作家の真実[#「真実」に傍点]で解消する。
□感覚を離れないで感覚以上のものを表現する[#「感覚を離れないで感覚以上のものを表現する」に傍点]。
それが作家の天分と努力とによつて可能となる。
[#ここで字下げ終わり]
三月四日[#「三月四日」に二重傍線] 曇。
身心平静。
三月五日[#「三月五日」に二重傍線] 晴。
外は春、内は冬。
三月六日[#「三月六日」に二重傍線] 曇。
雪もよひが雨になつた。
[#ここから3字下げ]
椿赤く思ふこと多し
[#ここで字下げ終わり]
三月七日[#「三月七日」に二重傍線] 晴。
茫々たり漠々たり、老衰あきらかなり。
緑平老よ、ありがたうありがたう。
五日ぶり外出、四日ぶり喫煙、七日ぶり飲酒、十日ぶり入浴。――
三月八日[#「三月八日」に二重傍線] 晴――曇。
沈欝たへがたし。
Nさん来訪、同道して山口へ。
二人の無用人! Mさんのところで少し借り、それから飲み歩く、九州へ渡れるだけは残して。
門司駅の待合室で夜明かし、岔水君を訪ねて小遣をせびり、黎坊に送られて八幡へ。
三月九日[#「三月九日」に二重傍線] 晴。
昨夜の延長。――
[#ここから3字下げ]
飾窓の花がひらいてゐるビフテキうまさうな
[#ここで字下げ終わり]
飲食店前即事である。
鏡子君、井上君、星城子君を訪ふ。
夜は或るデパート楼上の四有三君送別句会に出席。
[#ここから3字下げ]
さようなら雲が春らしい
[#ここで字下げ終わり]
鏡子居宿泊。
或る料亭で――
[#ここから3字下げ]
燈籠しづかなるかな酒のこぼるる
[#ここで字下げ終わり]
変質的脱線、飲んだ/\歩いた/\。
雲平君の厄介になる、ああ、ああ。(これは三月十二日の事実だつた!)
[#ここから3字下げ]
それから七階へ、星のきらめくを
[#ここで字下げ終わり]
鏡子居宿泊、白雲子、堤さん、星城子君来訪。
日本娘のよろしさ。
三月十日[#「三月十日」に二重傍線] 曇。
陸軍記念日。
おなじく。
三月十一日[#「三月十一日」に二重傍線] 風雨。
鏡子君自慢の腕をふるつて記念写真撮影。
来訪者いろ/\。
更けて、来訪の星城子君に連れられて同氏宅へ。
三月十二日[#「三月十二日」に二重傍線] 曇。
朝湯朝酒。
桜咲く前の荒生田公園風景、その中の一人として山頭火登場。
[#ここから1字下げ]
三月九日の記事最後の分はここに。――
[#ここで字下げ終わり]
三月十三日[#「三月十三日」に二重傍線] 晴。
雲平居。
[#ここから3字下げ]
見おろす山から春めいた煙
[#ここで字下げ終わり]
雲平君夫妻の優待に身心をまかせる。
[#ここから3字下げ]
草青むところよい妻とよい子と
[#ここで字下げ終わり]
おのれを恥ぢるばかりである。
三月十四日[#「三月十四日」に二重傍線] 曇。
雲平居。
三月十五日[#「三月十五日」に二重傍線] 曇。
おなじく。
読書、執筆、揮毫。
三月十六日[#「三月十六日」に二重傍線] 晴。
雲平居。
夜は菫雨居の海峡句会へ出席する。
俊和尚同宿。
三月十七日[#「三月十七日」に二重傍線]
へうぜんとして直方へ飯塚へ、そしてKのところへ。
初めてSに面会する、まことに異様な初対面ではあつた!
父父たらずして子子たり、悩ましいかな苦しいかな。
三月十八日[#「三月十八日」に二重傍線] 曇――晴。
緑平居へ転げ込む。――
[#ここから3字下げ]
ボタ山なつかしく草萌ゆる
[#ここで字下げ終わり]
三月十九日[#「三月十九日」に二重傍線] 雨。
雀、鶯、草、雲。……
愛憎なし恩怨なし、そしてそして、――愚!
若松へ、多君を煩はして熊本へ。
[#ここから3字下げ]
逢うて別れてさくらのつぼみ
いつまた逢へるやら雀のおしやべり
[#ここで字下げ終わり]
熊本駅で一夜を明かす。
三月廿日[#「三月廿日」に二重傍線] 晴。
朝、彼女を訪ねる、子に対する不平、嫁についての不腹[#「腹」に「マヽ」の注記]を聞かされる、無理はないと思ふけれど、私は必ずしもさうとは思はない、それは多分に人間(女)の嫉妬がまじつてゐる。
三月廿一日[#「三月廿一日」に二重傍線] 晴。
酒、酒、酒、歩
前へ
次へ
全28ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング