だ。
おいしい御飯そのもの[#「御飯そのもの」に傍点]だ。
句稿を整理しつゝ、自分の未熟なのに呆れ、懈怠がちであるのを恥ぢた、おい[#「おい」に白三角傍点]、山頭火[#「山頭火」に白三角傍点]、しつかりしろよ[#「しつかりしろよ」に白三角傍点]。
午後は畑仕事、すぐ掌にマメが出来る、まことに/\情ない肉体ではある。
夜は芭蕉を読む、芭蕉の物[#「物」に「マヽ」の注記]品は読めば読むほど味がふかい、と今更のやうに感じ入つたことである。
――遂に無芸大食にして終る――自弔の一句である。
卑しい夢を見た、私の内心には、人を疑ひ人を虐げる卑しさがあるのだ、恥づべし、鞭つべし。
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後記――
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□柿の葉のうつくさはないが――
 柿の蔕、柿膓
□ひとりの句二つについて――
□旅の句、吟行句
□「他人の午蒡で法事をする」
 御礼申上げる
[#ここで字下げ終わり]

 六月五日[#「六月五日」に二重傍線] 曇――雨。

梅雨近し。
第五句集柿の葉[#「柿の葉」に傍点]、やうやく脱稿、さつそく大山君に送つてほつとする、パイ一やるところだが、銭がないし、借るところもないし、やつとY屋で一杯ひつかける、この一杯には千万無量の味があつた。
割り切れない人生、どうやらかうやら、へゞれけ人生からほろゑひ人生へ。――
大根を播く、時知らず大根[#「時知らず大根」に傍点]といふ名はわるくない。
私の生活態度はあまりに安易であつた、生活内容が貧弱になるのもあたりまへだ。
今晩は一碗の御飯しかない、お茶を熱くして蕗を味はひつゝ食べた。
夜になつて雨、落ちついて読書。
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私の立場としては、
広く[#「広く」に傍点]よりも深く[#「深く」に傍点]
新[#「新」に傍点]よりも真[#「真」に傍点]を求める。
乞食することは、今の私として、詮方もないが、いはゆる乞食根性[#「乞食根性」に傍点]には落ちたくない、これは矛盾だらうか、否、否、否。
[#ここで字下げ終わり]

 六月六日[#「六月六日」に二重傍線] 雨、終日終夜降りつゞけた。

梅雨らしく降る、雨もわるくないけれど、方々の雨漏りには困る。
朝飯なし! 渋茶ですます。
ポストへ、I店で米を借りる、胡瓜も安くなつた、大五銭小二銭、小を二本買ふ。
捨猫がしきりに鳴く、鳴いて鳴いて鳴きつくして死
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