六月二日[#「六月二日」に二重傍線] 晴――曇。
青い朝が動いてゐる、暁のすが/\しさ、みづ/\しさ、身心清澄、創作衝動を感じる。
鶉衣[#「鶉衣」に傍点]を読む、うまいことはうまいが、あまりにうまい。
洗濯、草苅、何といふ役に立たない肉体だらう!
石油買ひに出かける、ついでに入浴。
やるせない手紙をSに送る、あゝ。
数日ぶりに新聞を見る、予期の如く林内閣は退却した、そして大命は近衛公に降下し、公は拝受した、これで行き詰つてゐる非常時も非常時として安定するだらうと誰もが予期してゐる。
国家は国民の社会である。
朝晩はまだ春だが、日中はまつたく夏だ。
ありがたくおいしく御飯をいたゞいた。
旅、旅、旅に出たい、そしてワガママをたゝきつぶしたい(かなしいかな、私は行乞の旅をつゞける元気をなくしてしまつてゐる)。
不眠、しようことなしの徹夜読書、アブラが切れたのだらう。
東の空が白むのを待ちかねて起きる。――
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詩人は謙虚でなければならない、見よ慢心せる俳人のいかに多きことよ。
増上慢[#「増上慢」に傍点]はネコイラズみたいなものだ。
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『飯と酒と水』
(父親の出奔、帰郷、家出)
『半自叙伝』
『うさき[#「き」に「マヽ」の注記]のころも』
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六月三日[#「六月三日」に二重傍線] 曇。
沈静。――
下の家の主人が来て草を刈つてゐる、朝風にそよぐ青草をさくり/\と刈りすゝむ心持は快いものであらうと思ふ。
今日もまた、郵便も来ないのか!
午後、ポストまで出かけたついでに、農学校の畜舎に寄つて新聞を読む、至るところ近衛内閣万歳である、誰もが暗さに労れてゐるのだ。
けふも発熱の気味、からだのどこかに異変が起つてゐるらしい、それもよからう、仕方がないが、どうか痛まないやうに。……
蒸暑い、柿の青い葉が時々落ちる。
二夜分ねむれた、いやな夢を見たけれど。
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放てば手に満つ[#「放てば手に満つ」に白三角傍点]
此語句に道元禅師の真骨頂が籠つてゐる、おのづから頭がさがる。
昨日は昨日の夢。
今日は今日の現実。
明日は晴か曇か、それとも雨か。
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六月四日[#「六月四日」に二重傍線] 晴。
好い季節だ(いつでも好季節といふのは観念としてゞある)。
好すぎる季節
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