ぐつすり睡れた。
一月廿一日[#「一月廿一日」に二重傍線] 雨。
めづらしい早起、すぐ飲みはじめる、ちびり/\うまいなあ、白船君ありがと。
ひとつひとつ餅を焼いては食べる。
貧楽[#「貧楽」に傍点]を味ふ。
私は身心共に例外[#「例外」に傍点]ではないかと考へる。
した[#「した」に傍点]のぢやない、なつた[#「なつた」に傍点]のだ。
ポストへ出かけたついでに入浴。
夕方敬君来庵、脱線談を聞くこともお正月らしい気分だ。
万事めでたしめでたし。
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近頃の感想[#「近頃の感想」に白三角傍点]
遺言[#「遺言」に白三角傍点]
――健に――
[#ここで字下げ終わり]
一月廿二日[#「一月廿二日」に二重傍線] 曇――雨。
大寒といふのにこのぬくさはどうだらう。
今日も年賀状を書く、ノンキだね!
銃声、喊声、非常時らしく聞える、至るところに軍国風景が展開される。
ひとりでしづかに微酔を味ふ。
誰も来なかつた、郵便も来なかつた、孤独と沈黙との一日一夜だつた。
嫌な夢を見た、何といふ嫌な夢だつたか、それは私の愚劣と家庭の――徃時の――醜悪とをまざ/\とさらけだしたものだつた。
一月廿三日[#「一月廿三日」に二重傍線] 曇――晴。
田舎餅はうまい/\。
身心沈静、暗愁を感じる。……
今日も蟄居、年賀状を書く。
午後、Kさん来庵、まじめに俳談しばらく。
さびしい夕餉だつた。
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□貧乏して卑しくならない人、苦労して狡猾にならない人はえらいと思ふ。
[#ここで字下げ終わり]
一月廿四日[#「一月廿四日」に二重傍線] 晴。
午前中は小春日和だつたが、午後は風が出てうそ寒かつた、それにしても大寒とは思へない。
とん/\から/\、前の家で莚を織り通す音もうらゝかだつた。
身辺整理する、――私は此頃何となく労れてゐる、――老いては老を楽しむがよい[#「老いては老を楽しむがよい」に傍点]。
待つものが来ない、苦労性の私は心配しないではゐられない、必ずしもヱゴではない。
午後、Nさん来庵、いつしよにそこらを散歩して、農学校の舎監室にKさんを訪ねる(樹明君は山口出張)、あたゝかいストーブの傍でヨウカンを食べながら話した。
帰途、一杯やりたかつたが――甘いものを食べた後なので殊に――八方塞りで、どうにもならなか
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