んとしてからつぽなり[#「こんとんとしてからつぽなり」に傍点]。
一月十四日[#「一月十四日」に二重傍線] 晴。
冬、冬をひし/\と感じる。
からだが痛い、火燵であたゝめる。
何もかも無くなつた、命だけはあるが。
無心にして逍遙遊せよ。
午後、Nさん来訪、餅を頂戴する。
読書。
すこしさみしい。
一月十五日[#「一月十五日」に二重傍線] 晴。
めつきり白髪がふえてゐるのに驚く。
蟄居十日、断酒五日。
朝は雑煮、昼は無、晩もまた無。
まるで水底にゐるやうだ。
一月十六日[#「一月十六日」に二重傍線] 晴。
銭が欲しい、酒も米も油も。
久しぶりにて御飯にありつく、うまかつた。
生死を生死すれば生死なし[#「生死を生死すれば生死なし」に傍点]といふ、まつたくだ。
なつかしいかな小鳥の群、冬の表情の一断面。
一月十七日[#「一月十七日」に二重傍線] 曇。
雪もよひ、今にも降りだしさう。
身心安静。
樹明君来庵、周二君も来庵、めづらしい三人でひさしぶりの快飲。
鮓がおいしかつた、鮓そのものよりもそれをこしらへて持つて来て下さつた心が。
めでたく解散。
一月十八日[#「一月十八日」に二重傍線] 曇。
ぬくい、うれしい。
うたゝ寝の夢のゆくへはいづこだらう。
今日はアルコールの誘惑に打ち克つことが出来た。
ポストまで出かける。
梅もよろしく椿もよろしく水仙もよろしく。
一月十九日[#「一月十九日」に二重傍線] 曇。
しづかな雨、しづかな心。
郵便は来なかつた。
南枝落北枝開[#「南枝落北枝開」に傍点]、これが宇宙の相である。
敬君来庵、樹明君も、暮羊君もまた、にぎやかな酒宴が初まつた、愉快々々。
一月廿日[#「一月廿日」に二重傍線] 曇。
毎日の冬ごもりには困るけれど詮方ない。
朝がへり、公明正大だ。
身辺整理。
昨夜の今朝で、さすがの山頭火も少々ぼんやりしてござる。
ポストまで。
梅の花ざかり。
濡れてかゞやく枯草のうつくしさよ。
Nさん来訪、Fさんといつしよに。
飲めば酔へる幸福を祝福すべし[#「飲めば酔へる幸福を祝福すべし」に傍点]。
年賀状をぼつ/\認める、のんきだね。
夕月がほのかに照る、白船君だしぬけに来庵、これはこれはとばかり話しこんでしまつた、八時の汽車へ見送る、お土産の吟醸をいたゞく。
ふくろうが啼く、さびしいと思ふ。
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