で、めでたきさかもり。
かういふ会合でなければならない、おかげで、のんびりとした。
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感激[#「感激」に傍点]は興奮[#「興奮」に傍点]ではない。
観念[#「観念」に傍点]から俳句は生れない。
俳句は体験から生れなければならない。
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四月三十日[#「四月三十日」に二重傍線] 曇――雨。
身心平静、何よりのよろこびである。
旧の三月廿日、秋穂はお大師まゐりで賑ふのだが、かういふお天気では人出が減るだらう、私も見合せた(小遣銭もないから)。
ほんたうの信心には雨も風もないけれど。――
待つてゐるものが来ない。
しめやかな雨。
午後、ポストへ、ついでに入浴。
一杯ひつかけてほろ/\、ぐつすりと寝た。
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御飯がおいしい――食べるものが何でもうまい――それは人生の幸福中の幸福である。
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五月一日[#「五月一日」に二重傍線] 雨。
早起、身辺整理。
ありがたい手紙が二つ、緑老から、黙君から、それは涙のこぼれる手紙だつた。
秋穂まゐりが出来ないので湯田へ行く、お大師様の御利益よりも温泉のそれがテキメンだつた。
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払ふべきもの払へるだけ払ふたうれしさ。
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五月二日[#「五月二日」に二重傍線] 三日[#「三日」に二重傍線] 雨――曇――晴。
湯田滞在。
時計を売つて、酒と菓子とをルンペン君に奢つた、みんないつしよにうたうて笑つた。
五月四日[#「五月四日」に二重傍線] 五日[#「五日」に二重傍線] 晴。
帰庵。
がつかりして寝つゞけた。――
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何物にも囚はるゝなかれ[#「何物にも囚はるゝなかれ」に傍点]。
殊に自己に対して[#「殊に自己に対して」に傍点]。
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五月六日[#「五月六日」に二重傍線] 晴。
五月、あゝ五月。
やつと寝床から起きあがつた。――
灯火なし、眠れない、苦しかつた。
五月七日[#「五月七日」に二重傍線] 曇。
身心不安、食慾減退。
樹明君から来信、よい事があるといふ、夕方から出かける、御馳走を頂戴する、敬君待つても来らず、泊る。
五月八日[#「五月八日」に二重傍線] 晴――曇――雨。
未明帰庵。
父の第十七回忌、ひとりさびしく読経し回向する、
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