――なりきらないところに[#「なりきらないところに」に傍点]、そこに悲喜劇の科介[#「科介」に「マヽ」の注記]があらはれるのだ。
今夜も眠れさうになかつたが、何となく気が明るく軽くなつて、明方ちかくなつて睡れた。
夜をこめて恋のふくろうのたはむれ[#「恋のふくろうのたはむれ」に傍点]、彼等は幸福だ、幸福であれ、といふのも人間の愚痴だらう。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
□アルコールは離れがた[#「た」に「マヽ」の注記]ない悪魔だ。
酒を飲むことは、酔うて乱れることは、私の Karma だ。
□狂か死か[#「狂か死か」に傍点]、それとも旅か[#「それとも旅か」に傍点](今の私を救ふものは)、或はまた疾病か[#「或はまた疾病か」に傍点]。
□死線を超えるごとに、彼は深くなる、それがよいかわるいかは別問題だ。
□そこに偶然はない[#「そこに偶然はない」に傍点]、必然があるばかりだ[#「必然があるばかりだ」に傍点]。
□時としてはよい種子[#「よい種子」に傍点]も播け!
[#ここから1字下げ]
今日の私の買物
一金十五銭 石油三合
一金十一銭 マツチ大函
一金十銭 ハガキ五枚
一金五銭 切手十枚
┌いとなみ――労働┐
│ ├たのしいはたらき[#「たのしいはたらき」に傍点]
└たはむれ――遊戯┘
[#ここで字下げ終わり]
四月二日[#「四月二日」に二重傍線] 曇。
花ぐもりだらう、花のいぶきを感じる。
沈欝たへがたし、それを堪へるのが私の人生である。
どうやらかうやら、ぼうぜんたる気分からゆうぜんたる気分へ転換しつゝある。
天地人の春[#「天地人の春」に傍点]であれ。
掃除――洗濯――裁縫――なか/\忙しい。
やうやく句が出来るやうになつた、おちついて澄んできたのである、とにかくうれしい。
旅の樹明を思ひつゝ来庵を待つたが駄目だつた。
風、風、風、午後はいやな、さびしい風が吹いた。
夜中夢中で絶え入るほど咳きこんで困つた。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
□一年は短かいやうだけれど、一生はずゐぶん長いやうに思ふ。
□俳句は(短歌も同様に)ひつきよう心境詩[#「心境詩」に傍点]ではあるまいか。
[#ここで字下げ終わり]
四月三日[#「四月三日」に二重傍線] 晴。
神武天皇祭、日本的!
うらゝかな旗日。
早
前へ
次へ
全55ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング