あたりまへすぎるあたりまへだらう。
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二月五日[#「二月五日」に二重傍線] 晴――曇。
けさはだいぶ関節炎がよくなつたらしい、それではかへつて困る、幸福な不幸から不幸な幸福へ転じては、いよ/\ます/\不幸になる!
もう蕗のとうが出てゐるさうな、それを聞いたゞけでも早春を感じる。
食後の散歩がてら、蕗のとうを探して近在をぶらつく、出てゐた、出てゐた、去年も出たところに出てゐた、よい蕗のとうだ、よい香気だ、さつそく佃煮にする、句にする。
麦がなくなつたので、久しぶりに米だけを炊く、飯の白さが身心にしみとほるやうであつた。
落ちついてゐるつもりだけれど、事にふれ折につけて動揺する(今日だつてさうだ)、自分によく解つてゐるだけそれだけ苦しい。
ぶらりぶらり家のまはりを歩いてゐると、うちの蕗のとうも落葉の中から逞ましいあたまをのぞけてゐる(黎々火君が持つて来て植ゑた秋田蕗である、自然生の蕗は毎年ずつとおくれて、貧弱なとうを出す)。
蕗のとうが咲いたのもおもしろい。
暮れてゆくけはひ、暮れ残る梅の花、何となく悄然としてゐるところへ樹明君から呼び出しの使者が来た、さつそく学校の畜舎部屋へ出かける、Iさん、Jさん、そして樹明君が車座になつて酒宴が開かれてゐる、私もその中へとびこむ、うまいうまい、ありがたい、ありがたい、酔ふた酔ふた、……それから街へ、……F屋へ、Sへ、Mへ、たうとうKへ……ぼろ/\どろ/\……何が何やらわからなくなつた、……それでも跣足で戻つて、ちやんと自分の寝床に寝てゐた、命をおとさなかつたのは不思議々々々。
泥酔のよろしさ、こんとんとしてぼう/\ばく/\、だが少々梯子を登りすぎましたね!
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□おでんのやうな句[#「おでんのやうな句」に傍点]、そしてやつこ豆腐のやうな、或はビフテキのやうな句。
□冬ごもりの幸福――火燵、本、食物、そして煙草も酒も――それから――それ以上あると不幸になる!
□人生は割り切れないだらうが、割り切れるやうな場合もないではない、深い体験で算盤玉を弾く時。
□芸術的真実は生活的事実から生れる[#「芸術的真実は生活的事実から生れる」に傍点]。
事実にごまかされては真実はつかめない。
□現実にもぐりこんで、もぐりぬけたとき、現実をうたふことが出来る。
□雑音にも雑音として
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