カン》らしい寒気。
暮れて節分の鐘が鳴り出した、いろ/\考へさせる声だ、宮市の天満宮は賑ふだらう、思ひ出は甘酸つぱい哀愁だ。
八時頃から出かける、参詣人がつゞいてゐる、境内を探したが樹明君を見つけることが出来ない、約束の場所に約束の時間に一時間近くも待ちうけたが、たうとう逢へなかつた、逢へなかつたことは残念だが、逢はなかつた方がよいやうにも思ふ、とにかくこれからは夜の外出はやめることにしよう、寒くて、そして淋しくてやりきれないので、駅へまはつて(そこまで行かないとマイナスが利かない)、熱いのを数杯ひつかけて帰庵した。
身心共に寝苦しかつた。
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┌生活的事実
└芸術的真実[#「芸術的真実」に傍点]
┌芸道[#「芸道」に白三角傍点]
│芸のための芸
└芸そのものを磨く
┌君は都会人で都会にゐる
│都会の風物をうたひたまへ
└都会人としての君をうたひたまへ
┌私は田舎にゐる田舎者だ[#「田舎にゐる田舎者だ」に傍点]
│天然自然の田園をうたうて
└自分を出すより外ないではないか
┌君のビルデイングは私の草屋だ
└私の雑草は君のアドバルーンだらう
[#ここで字下げ終わり]
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□藪椿[#「藪椿」に傍点]はまことに好きな花木だ、
それに昔風の田舎娘[#「昔風の田舎娘」に傍点]を感じる、
彼女は樸実だが野卑ではない。
□事実を掘り下げて[#「事実を掘り下げて」に傍点]、その底から真実を掴み取ることだ[#「その底から真実を掴み取ることだ」に傍点]。
□雲悠々と観る彼はいら/\してゐるのである、この気持が解らなければ、彼の作品はほんたうに味へない。
□食べる物は何でもおいしくありがたく食べる私[#「食べる物は何でもおいしくありがたく食べる私」に傍点]、私は私を祝福す[#「私は私を祝福す」に傍点]る!
□意志の代用としての肉体的缺陥[#「意志の代用としての肉体的缺陥」に傍点]。
(私の病は私を救ふ)
[#ここで字下げ終わり]
二月四日[#「二月四日」に二重傍線] 晴。
歩行困難、そして気分安静、――快い矛盾[#「快い矛盾」に傍点]、肉身おとろへて心気澄む[#「肉身おとろへて心気澄む」に傍点]、とでもいひたい境地である。
うらゝかな小鳥のうた、春が来たやうな微風。
それにしても、今日も郵便は来ないのか、さび
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