よろしくない、不摂生がリヨウマチを招いたのだらう、私はそれをむしろ喜ぶ、歩行の不自由は(不能となつては困るけれど)私におちつきを与へるだらう、私は酔うて彷徨する悪癖に悩んでゐるからである、不幸な幸福[#「不幸な幸福」に傍点]とでもいふべきか。
私は私の孤独[#「孤独」に傍点]を反省する、それは孤高[#「孤高」に傍点]でなくて孤寒[#「孤寒」に傍点]である、私は孤立[#「孤立」に傍点]を誇るほど思ひあがつてはゐないが迎合[#「迎合」に傍点]に甘んずるほど堕落してもゐない。
在るべきものが――無くてはならないものが――米が炭が石油が在る幸福と喜悦と、そして感謝。
私は幸福だ[#「私は幸福だ」に傍点]、少くとも今日の私は幸福である[#「少くとも今日の私は幸福である」に傍点]。
夜の明けしらむまで不眠、しかし今夜の私には読みたい本があり、灯火があつた。……
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※[#二重四角、26−1]男は欲しくないが、子供が欲しいといふ女が出現しつつあるといふ。
 女は欲しがつて子供を欲しがらない男が存在することはたしかだ。
 これも現代相の一面である。
※[#二重四角、26−4]私の好きな食物は――
 酒と刺身[#「酒と刺身」に傍点]と、それから餅[#「餅」に傍点]
 私の好きな事は――
 旅[#「旅」に傍点]と読書[#「読書」に傍点]と句作[#「句作」に傍点]。
[#ここで字下げ終わり]

 二月三日[#「二月三日」に二重傍線] 晴。

節分――春立つ日。
ルナアル日記を読む、そしてまづ感じたことは、――真実は言つてよいもの[#「真実は言つてよいもの」に傍点]、言ふべきものといふよりも[#「言ふべきものといふよりも」に傍点]、言はずにはをれないものである[#「言はずにはをれないものである」に傍点]――といふことであつた。
足が痛い、左の足が腫れてゐる、かしこまることができなくなつた、よろしい、歩くことがむつかしくなつたつてよろしい、それは日頃から私の望んでゐたところだ!
郵便は来なかつた、それは私をよつぽどさびしうする。
今日になつてもまだ賀状を書きつづけてゐる、それほどのんきでづぼらな私だ。……
午後、ポストまで出かけたついでに樹明君を訪ねる、今夜の八幡宮節分祭で出逢ふことを約束した。
寒鮒と馬肉とを貰うて戻る、有難かつた。
寒い、寒い、寒《
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