悲しい武器だ[#「弱者の悲しい武器だ」に傍点]。
[#ここで字下げ終わり]

 一月三十一日[#「一月三十一日」に二重傍線] 曇。

身心正常、このマラを見よ[#「このマラを見よ」に傍点]!
午後、中村さん来庵、西蔵の線香を貰つた、さつそく一本を焚く、ほのかに伽羅の香がする。
いつしよに裏山をぶらつく、墓場の徳利を拾つたり、或は竹田小幅を売り飛ばした不孝話を聞く。
別れてから句作。
お茶漬さら/\うまい/\。
夜は婦人公論の新年号を読む、なか/\面白い。
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□貧乏しても貧乏くさくなるな。
□小さい殻に閉ぢこもつてちゞこまるな。
□独りの酔を味はひ楽しむ。
 対山独酌。
□物がなくなつてその物の価値が解る。
 物そのものだけでその持味が解る。
□武士は食はねど――はよろしい。
 高楊枝――はよろしくない。
□自己を味ふ[#「自己を味ふ」に傍点]。
 自己観照[#「自己観照」に傍点]。
□泥酔のうれしさ、泥酔は一切を撥無する[#「泥酔は一切を撥無する」に傍点]。
□自から運転させない資本の持主、自から耕作しない田畑の持主、自己の才能を発揮させない人間――彼等は共に社会のダニだ。
[#ここで字下げ終わり]

 二月一日[#「二月一日」に二重傍線] 曇――雨。

更始一新。
或は雨を聴き、或は書を読み、終日独坐。
孤独、沈潜――句作。

 二月二日[#「二月二日」に二重傍線] 晴、時雨。

いよ/\身心安静なり。
たよりいろ/\、どれもうれしいが、Yさんから米代(酒代といふのだが、現在の場合では酒でなく米になつた)。
澄太君からルナアル日記を送つて貰つたのは、とりわけ、ありがたかつた。
午後、街のポストへ、ついでに入浴、それから一杯、――六日ぶりの風呂、三日ぶりの酒で、ユカイ/\。
ほろ酔機嫌で、うと/\してゐるところへ、Kさん来訪、お土産の餅はうまかつた、ことに草餅は。
林内閣まさに成立、とにかくめでたし。
物価騰貴、木炭の値上りは寒がりの私にはたこ[#「たこ」に「マヽ」の注記]へる、白米が一升につき一銭あがつて、三十二銭(私はいまだ米を高いと思つたことはない)。
私は近頃何となく老人、ことにおぢいさんに心をひかれる、私自身がもうおぢいさん気分[#「おぢいさん気分」に傍点]になつたからでもあらうか。
足が痛い、左足の関節のぐあいが
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