ころで、中井さんと朝酒を酌みかはす、別れてはお互に雲の如く風の如くいつまた逢るやら、逢へないやら、中井君よ、命長く幸多かれ。
へう/\として中井君は行く、私はぼう/\として見送る。……
それにしてもよく飲んだ、昨夜三人で二本、今朝二人で一本、その一本は中井君が絵を売つて、その金で買つてきてくれた酒だ、ありがたい酒かな、すまない酒かな。
小春のうらゝかさ、太陽の恩恵が身心にしみる。
春菊のうまさよ(そのうまさには私が栽培したといふ味もこもつてゐる)。
裏山を歩いて仏前に供へる花をさがす。
梅、水仙、青木、椿、みなどれもうつくしい。
暮れるころ、駅のポストまで出かける、我慢しきれなくてY屋に寄つて二三杯ひつかける、ほろ酔機嫌で戻つてすぐ寝る。
よく睡れたが、夢は怪奇なものだつた、何しろ幽霊があらはれたり猛獣が出てきたり、とてもあやしいものだつた、それはすべて私自身の卑怯醜悪だ!
新聞を見ると、宇垣大将は遂に大命拝辞(大将の官職をも辞退するといふ)、平沼枢相も拝辞、そして林大将大命拝受、これで政局は落ちつくらしい。
私は陸軍の誠意を信じる、熱情を尊ぶ、たゞ憂ふるところは専政、独裁、圧迫、等々である。
政党よ[#「政党よ」に傍点]、しつかりしろ[#「しつかりしろ」に傍点]、国民よ頑張れ[#「国民よ頑張れ」に傍点]!
それはそれとして、私は私自身について考へる(私は人間の例外だ[#「私は人間の例外だ」に傍点]、社会の疣だ[#「社会の疣だ」に傍点])、――私の一切を句作へ、酒はさういふ私を精進させる動力である。
二三合で酔へる私であつたら[#「二三合で酔へる私であつたら」に傍点]、――と今夜もしみ/″\考へたことである。
とにかく、今夜は七十三銭の幸福[#「七十三銭の幸福」に傍点]だつた。
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□生活をうたふ[#「生活をうたふ」に傍点]とは果して何を意味するか、考ふべし。
生活とは何か、考ふべし。
□実生活に於ける自他の問題。
(個人と社会と国家)
芸術内容としての自然人生。
□人生とは。
芸術とは。
詩とは。
俳句とは。
□酒は仏だ、そして鬼だ、仏としては憎い仏、鬼としては愛すべき鬼だ。
□わがまゝな不幸[#「わがまゝな不幸」に傍点]。
最後の我儘は何か――自殺だ[#「自殺だ」に傍点]!
□自殺は弱者の
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