よかつた、安心した(私の予感があたらないでもなかつたらしい、先日来、酒のために悩まされたといふ)、御飯を食べてから、君は沙魚釣に、私はポストへ。
今日も品行方正!
午後、T酒店の主人が空罐拾ひに来て閑談しばらく、先日の新聞記事が利いてるらしい。
秋を味ふ、眼で柿を食べる[#「眼で柿を食べる」に傍点]。……
がちやがちやがまだ鳴いてゐる、鈴虫があちらで一匹、こちらで一匹、おとなしくさびしく鳴く。
どうも寝苦しい、やつと寝つくと悪夢におそはれる、詰らないことである。
過去は過去、未来は未来、後悔するな、遅疑するな、現在を十分に生きろ[#「現在を十分に生きろ」に傍点]!
第一山頭火、第二山頭火、第三山頭火。――
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
   「秋風日記」
○播くもの――宮重大根、聖護院大根、ころげ蕪、新菊、ほうれん草(ワケギを植ゑる)。
○秋を味ふ――酒と松茸。
○風、月、草、虫。――
○蚯蚓つぶやいて曰く――俺の寝床の平和をみだすのは誰だ!
 こほろぎはさゝやく――こゝはわたしの産褥ですよ。
 雑草曰く――もうぢき枯れるんだ。
[#ここから2字下げ]
(十日)
・にぎや
前へ 次へ
全138ページ中60ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング