前、日記と句帖とを無理借されて、其後音沙汰なしが、その一因でもあるが、酒を飲んだ君は信用出来ない、君が好人物であるだけ惜しい。
夜、枕許へこほろぎがやつてきた。……
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(拾日)
・郵便が来てそれから柿の葉のちるだけ
・播きをへてふかぶかと呼吸する
・昼ふかく落葉に落葉が落ちては
・鳴いて鳴いてこほろぎの恋
・何おもふともなく柿の葉のおちることしきり
・ぢゆうわうにとんだりはねたり蝗の原つぱ
・もろいいのちとして手のしたの虫
・柚子の香のほの/\遠い山なみ
・砂ほこりもいつさいがつさい秋になつた
・生きてはゐられない雲の流れゆく
・明日は死屍となる爪をきる
・捨てたをはりのおのれを捨てる水
・眼とづれば影が影があらはれてはきえる
・水音のとけてゆく水音
・死へのみちは水音をさかのぼりつつ(改)
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□正しく[#「正しく」に傍点]、たゞ正しく[#「たゞ正しく」に傍点]、そこから美しさも清らかさもすべて生れてくる。
□古きものほど新らしきはなし[#「古きものほど新らしきはなし」に傍点]、真理は平凡なり[#
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