十月八日」に二重傍線] 晴――曇。

朝寒、火鉢がこひしくなつた、朝月もつめたさうだ、まともに朝日があたたかく、百舌鳥の声が澄んできた。
自己省察、その一つとして、――こんどの旅は下らないものであつたが、よい句は出来なかつたけれど、句境の打開[#「句境の打開」に傍点]はあると思ふ、生れて出たからには、生きてゐるかぎりは、私も私としての仕事をしなければならない、よい句[#「よい句」に傍点]、ほんたうの句[#「ほんたうの句」に傍点]、山頭火の句[#「山頭火の句」に傍点]を作り出さなければならないと思ふ、私は近来、創作的昂奮[#「創作的昂奮」に傍点]を感じてゐる、私にもまだこれだけの芸術的情熱[#「芸術的情熱」に傍点]があるとは私自身も知らなかつた、――私は幸にして辛うじて、春の泥沼[#「春の泥沼」に傍点]から秋の山裾[#「秋の山裾」に傍点]へ這ひあがることができたのである。
シロがやつてきてうろ/\してゐる、彼もまた不幸な犬だ、鈍にして怯なること私に似てゐる。
午後、ともすれば滅入りこむ気分をひきたてて、秋晴三里の郊外を歩いて山口へ出かける、椹野川風景も悪くない、葦がよい、花も葉も、――い
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