い心境逍遙。
放下着――無一物――一切空。
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 九月廿六日[#「九月廿六日」に二重傍線] 曇、――雨。

樹明君ぼうぜん、私はせいぜんとして。
酔中の自己について語り合ふ、そして笑ひ合ふ。
雨しとしと、その音は私をおちつかせる、風さうさう、その声もおちつかせる。
身辺整理。
茶の花が咲いてゐた(此木には気がつかないでゐた、ずゐぶん早咲である)、好きな花だ、さつそく活けて飽かず観る、純日本的のよさがある。
夕暮出かける、豆腐買ひに酒買ひに、地下足袋穿いて傘さして。
Nさん来庵、いつしよにほどよく飲んで食べて、それから歩く、ほどよく酔うて別れた、めでたしめでたし。
酒はありがたい、おかげで今夜はぐつすりと寝た。
日が短かくなつた、雨が――何物へもしみいるやうな、しみとほらないではやまないやうな雨が降りだした。
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   或るおだやかな夜の自問自答
「酔ひましたね」
「酔ひました」
「歩きませうか」
「歩きませう」
「飲みませうか」
「飲みませう」
「面白いですな」
「面白いですね」
「帰りませうか」
「帰りませう」
「休みませうか」
「休みませ
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