うで物がぼうとしてゐる。
蝉がいつとなく遠ざかつた、小鳥が出てくる、虫がやるせなく鳴く。……
Jさんの子供が棗もぎに来た、私にもこれに似た少年の日のおもひでがある。
郵便は来なかつた。
生物の※[#「てへん+執」、254−8][#「※[#「てへん+執」、254−8]」に「マヽ」の注記]拗を蟻の群に見出す。
法師蝉が身近く鳴きせまる、何だか蝉も私もヤケクソになるやうな。
酒屋が酒を持つて来てくれた、飲んでゐるうちにやりきれなくなる、とびだして歩く、ぼう/\たるものがそこらいちめんにひろがつて、何もかもどろ/\になつてしまつた。……
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物そのもの[#「物そのもの」に傍点]
[#ここで字下げ終わり]

 八月三十一日[#「八月三十一日」に二重傍線] 晴曇。

眼が覚めたら畜舎だつた、……Jさんの寝床に潜り込んでゐたのだ、……急いで戻つて、水を汲む、飯を焚く、ヒヤをひつかける、……切なくて悩ましかつた。
しづかな、あまりにしづかな一日、読書と反省、すなほであれ、つゝましくあれ。

 九月一日[#「九月一日」に二重傍線] 曇、――晴。

陰暦七月十五日、そして二百十日、そし
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