りだした、警察のサイレンも、――火事らしいが見えない。
いつとなく眠つてしまつた。

 八月十五日[#「八月十五日」に二重傍線] 晴。

此の地方は昨日今日が盆。
朝焼がうつくしかつた。
身辺整理、毎日少しづつやつてゐるが、なか/\かたづかない。
庵中閑寂、盆のたのしさもわずらはしさもない。
午後、今日も夕立、蒸暑い夕立模様。
駅のポストまで。――
晩酌は焼酎、下物は昨日の焼鯖。

 八月十六日[#「八月十六日」に二重傍線] 晴、……曇、……雨。……

秋を感じる、昨日はつくつくぼうしが最初の声を聞かせた、萩もこま/″\と蕾をつけた。
朝のこゝろよさ、しづかに考へ、書き、読む。
正法眼蔵随聞記拝読。
また雨、ほんたうにやりきれない。
盥に雨を聴く(そこら雨漏る音がたえない)。
心境廓然[#「心境廓然」に傍点](先夜の放下着このかた)。
午後、今日も日課のやうに駅のポストまで。
涼しい夕だ、涼しすぎる、秋が来た、秋が来たのだ、あけはなつて浴衣では肌寒いほどだつた。
今夜も踊大皷が聞える、踊れ踊れ、踊りたいだけ踊れ、踊れるだけ踊れ、踊れ踊れ。
夜は散歩(散歩でもしなければ堪へられなくて)、
前へ 次へ
全138ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
種田 山頭火 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング