、また上郷から歩く)
[#ここで字下げ終わり]
やつぱり酒がいちばん高い、酒を飲まないと苦労はないのだけれど、しかし、たのしみもないわけだ。
[#ここから1字下げ、折り返して2字下げ]
□自己の単純化[#「自己の単純化」に傍点]。
 何よりも簡素な生活[#「簡素な生活」に傍点]。
□今日の太陽[#「今日の太陽」に傍点]!
□自画像[#「自画像」に傍点]
 句集の題名として悪くないと思ふ、平凡なだけ嫌味はない、私の句集にはふさわしいであらう。
□秋の山、秋の雲、秋の風、秋の水、秋の草――秋の姿が表現する秋の心[#「秋の姿が表現する秋の心」に傍点]。
 松茸[#「松茸」に傍点]よ。
 秋を吸ふ、食べる、飲む。
 秋を味ふ、秋の心に融ける。
[#ここから2字下げ]
(八日)
・晴れきつて大根二葉のよろこび
・柿の葉のちる萩のこぼるること
・秋晴の馬を叱りつ耕しつ
・蕗の古葉のいちはやくやぶれた
・月夜ゆつくり尿する
・播かれて種子の土におちつく
・風が枯葉を私もねむれない
   (山口吟行)
・細い手の触れては機械ようまはる(工場)
・秋草のうへでをなごで昼寝で
・秋風の馬がうまさうに食べてゐる
・とんぼうとまるや秋暑い土
・みのむしぶらりとさがつたところ秋の風
・お父さんお母さん秋が晴れました(ピクニツク)
[#ここで字下げ終わり]

 十月九日[#「十月九日」に二重傍線] 晴。

身心やうやくにして本来の面目[#「本来の面目」に傍点]にたちかへつたらしい、おちつけたことは何よりうれしい。
午前、鉄道便で小さい荷物がきた、黙壺君からの贈物であつた、福屋の佃煮、おかげで御飯をおいしくいたゞくことができる、ありがたし。
秋をたたへよ、秋をうたへよ、秋風日記[#「秋風日記」に傍点]を書き初める。
痔がよくない、昨日歩いたからだらう、痛むほどではないけれど、気持が悪い。
昼飯は久しぶりにうまい味噌汁。
何といふしづかさ、純愛の手紙[#「純愛の手紙」に傍点]といふのを読む、彼の純な心情にうたれる。
午後は畑仕事、蕪、大根、新菊などゝ播くものが多い。
夕方出かけて一杯ひつかける。
夕餉するとて涙ぽろ/\、何の涙[#「何の涙」に傍点]だらう。
何となく寝苦しかつた、おちついてはゐるけれど。――
ぐうたら、のんべい、やくざ。……
[#ここから2字下げ]
(九日)
・うれしいことでもありさうな朝日がこゝまで
・はたしてうれしいことがあつたよこうろぎよ
・飛行機はるかに通りすぎるこほろぎ
・つめたくあはただしくてふてふ
・ひつそりとおだやかな味噌汁煮える
・百舌鳥もこほろぎも今日の幸福
・水をわたる誰にともなくさようなら
・月の澄みやうは熟柿落ちようとして
・酔ひざめの風のかなしく吹きぬける(改作)
[#ここで字下げ終わり]

 十月十日[#「十月十日」に二重傍線] 晴――曇。

けさも朝月がよかつた。
小猫でも飼はうかなどゝ思ふ(犬も悪くないけれど私にはとても養ひきれない)、こんなことを考へるのは年齢のせいか、秋だからか、とにかくペツトが欲しいな。
平静、しづかに読み、しづかに考へる、時々オイボレセンチを持て余す、どう扱つたらよからうか。
松茸で一杯二杯三杯やりたいなあ、あの香、あの舌触、ああやりきれない!
こんな句を見つけた――
[#ここから2字下げ]
老いぬれば日の永いにも涙かな  一茶
[#ここで字下げ終わり]
さつそく、附きすぎる句を附ける――
[#ここから2字下げ]
夜ルも長くてまた涙する  山頭火
[#ここで字下げ終わり]
同老相憐むとでもいはう。
たよりいろ/\ありがたし、それにつけても、私の方からあげなければならないたよりであげずにあるたより、たとへば秋君へのそれのやうなのがある、それを考へると胸がいたくなる、決してなほざりにしてゐるのではないが、あげられないのだ、あげたいあげたいと念じながらあげることが出来ないのだ!
今日も小包、長野の北光君から、信濃の春をおもひだす、一昨日は伊豆の一郎君から小包を受取つて、今春の会合をなつかしんだが。
第二日曜[#「第二日曜」に傍点]十月号、はつらつとしてたのもしい、音律論がまた問題になつてゐる、俳句のリズム論はずゐぶん、むつかしい問題であるが、それを理論づける[#「理論づける」に傍点]人は別にある、私はそれを実行づけ[#「実行づけ」に傍点]なければならない。
とにかくぼんやりしてはゐられない、勉強することだ。
心の中で或る人に詑びる、――友としてのすまなさよりも人間としての恥づかしさ[#「人間としての恥づかしさ」に傍点]を私は痛感してゐます。
郵便物を持つて街へ、そして米を買へるだけ買ふ、そして一杯やりたいが、今日はダメダメ!
私には仏道修行[#「仏道修行」に傍点]はとても出来ないが(仏弟子と
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