どりがうれしさうに啼いて飛ぶ。
あるだけの米と麦とを炊く、炭も石油もなくなつた、なくなるときには何もかもいつしよになくなる、人生とはこんなものだなと思ふ。
読むものだけはある、片隅の幸福[#「片隅の幸福」に傍点]は残つてゐる。
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・いちにち雨ふり春めいて草も私も
 めつきり春めいて百舌鳥が啼くのも
 ゆふ凪の雑魚など焼いて一人
・寝床へまでまんまるい月がまともに
・かうして生きてゐる湯豆腐ふいた
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 二月十九日[#「二月十九日」に二重傍線] 晴、晴、春、春。

やうやく米と炭と油とを工面した、窮すれば通ずるといふが、私の内外の生活はいつもさうである。
今宵は十六夜の月のよろしさ。

 二月二十日[#「二月二十日」に二重傍線] 晴、霜も氷も春。

独り者の朝寝はよろしいな。
午後、湯屋へ出かけて、ユフウツを洗ひ流してくる。
帰途、農学校に立ち寄つて樹明君と話す、君も此頃は明朗で愉快だ。
私は酒も好きだが、菓子も好きになつた(何もかも好きになりつつある、といつた方がよいかも知れない)、辛いものには辛いもののよさが、甘いものには甘いもののよさが
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